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役割を分けても、仕事は流れない──建設業の「つなぎ目」問題

「うちは役割分担はちゃんとできているんです。現場のことは現場監督、書類は事務、見積もりと段取りは私。それぞれに任せているのに、なぜか仕事が途中で止まる」。中小の建設会社の社長と話していると、こういう言葉をよく聞きます。役割は分けたのに、回らない。これは社長の力不足でも、社員のやる気の問題でもなく、「役割と役割のつなぎ目」が設計されていないことが原因なんですよね。今日は、この「つなぎ目」の話を書きます。

「職種が多いから」ではない──国の資料が指摘する原因

まず、国の資料を見てみます。2025年版の国土交通白書は、建設業の労働生産性が他の産業より低い要因を、はっきりと書いています。建築工事は関わる職種が多く、その職種から職種へ作業が引き継がれるたびに「手待ち時間」が生まれ、現場全体が非効率になっている──という分析です。

ここで大事なのは、国が問題にしているのが「職種が多いこと」そのものではない、という点です。問題にしているのは「引き継ぎ」と「手待ち」のほうです。職人さん、現場監督、設計、協力会社。建設の仕事は、もともと多くの役割が関わって、初めて形になります。役割が多いのは建設業の宿命であって、悪いことではありません。

ロスが生まれるのは、その役割から役割へ仕事が渡る瞬間です。「言ったつもり」「聞いていない」「あの人の確認待ち」。一つひとつの作業ではなく、作業と作業のあいだで、時間が静かに溶けていくんですよね。

同じ白書には、建設業で現場作業に従事する人の年間平均賃金が432万円で、全産業の508万円より低い、というデータもあります(いずれも出典:令和7年版国土交通白書)。生産性が上がらなければ、賃上げの原資も生まれません。「つなぎ目のロス」は、回り回って、人が集まらない理由にまでつながっていきます。

もうひとつ、白書は建設業の生産性についてこうも書いています。建設業はこの十数年で、働く人の数が約2割減るなかでも、生産性そのものは約4割上昇してきました。少ない人数で、より多くの成果を出せるようになってきた、ということです。それでも、他の産業と比べると、建設業の生産性はまだ低い水準にとどまっています。つまり、現場の頑張りは、もう十分に出ているんです。次に伸びしろがあるのは、一つひとつの作業の速さではなく、「作業と作業のつなぎ方」のほうなんですよね。

役割を割り振って、満足していないか

この「役割を分けても流れない」現象を、うまく言葉にしている本があります。中原淳さんと田中聡さんの『チームワーキング』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年)です。

この本は、多くのチームがかかりやすい「病」をいくつか挙げています。そのひとつが「役割分担したはずのタスクがまったくつながらない病」。役割を割り振ったところで満足してしまい、その後の「つながり」を、誰も見ていない状態のことです。

建設の現場に当てはめると、よく分かります。たとえば、社長が出した見積もりの「ここはこういう仕様で」という前提が、現場監督には口頭でしか伝わっていない。現場監督が職人さんに段取りを渡すとき、図面の最新版がどれか曖昧なまま渡る。協力会社に「いつもの感じで」とお願いして、認識がずれる。どれも、誰かがサボったわけではありません。ただ、渡し方が決まっていないだけなんですよね。

ではどうするか。私が提案したいのは、難しいシステムを買う前に、まず「仕事の流れを1枚に書き出す」ことです。書き出すのは、次の3つです。

  • お客様との出会いから引き渡しまで、仕事がどう流れているか

  • それぞれの工程を、誰が担当しているか

  • 工程と工程の「間」で、何が、誰から誰へ渡るのか

いちばん大事なのは、3つ目の「間」です。役割(箱)は、誰でも書けます。でも、つなぎ目(矢印)は、書き出してみて初めて「ここ、いつも口頭だけで渡している」「ここ、私が確認しないと先に進まない」と見えてくるんですよね。

人を増やす前に、「つなぎ目」を見る

ここで、読者の方にひとつ考えてみてほしいことがあります。御社で「仕事が止まる」とき、止まっているのは“役割の中”でしょうか。それとも“役割と役割の間”でしょうか。

私がいろいろな経営者と話していて感じるのは、人手不足の相談の多くが、実は「人の数」ではなく「つなぎ目」の問題だ、ということです。事務員を1人増やしても、引き継ぎのルールがなければ、新しい人は「で、これは次に誰へ渡せばいいんですか」と、聞いて回ることになります。つなぎ目が設計されていない会社に人を足すと、確認の往復が、かえって増えることさえあります。

もうひとつ。つなぎ目には、「人が辞めたときに会社が止まるかどうか」が表れます。ベテランの現場監督が一人いて、その人の頭の中だけに段取りの全体像がある。これは、役割の中に知恵が詰まっている状態です。悪いことではありませんが、その人が休んだ瞬間、つなぎ目ごと止まってしまう。つなぎ目を紙に書き出す作業は、その知恵を「人」から「会社」へ移していく作業でもあるんですよね。

逆に言えば、つなぎ目さえ見えれば、打ち手は一気に具体的になります。ここは決まった書式を1枚作ればいい。ここはAI(パソコンに下書きを任せる道具)に任せればいい。ここは思い切って外に出してもいい。「採用」だけが、唯一の選択肢ではなくなるんですよね。

まとめ──今日からできる、お金のかからない一歩

役割を分けることは、入口にすぎません。仕事が流れるかどうかは、役割の“間”をどう設計したかで決まります。

まずは紙でも、ホワイトボードでも構いません。自社の仕事の流れを1枚に書いて、工程と工程の間に矢印を引いてみてください。その矢印のうち、「いつも口頭」「いつも社長待ち」になっているものが、御社の伸びしろです。

私自身、ShakeHandsという会社を一人で営んでいますが、外のパートナーと組んで仕事を進めるとき、いちばん神経を使うのが、まさにこの「渡し方」です。役割を分けること以上に、渡し方を決めることのほうが、ずっと難しい。だからこそ、ここを直すと、会社は驚くほど軽くなると思っています。

人を増やす前に、つなぎ目を見る。今日からできる、お金のかからない一歩です。


合同会社ShakeHands
人手不足を、構造から整理する事業パートナー
人が足りない。でも「採用」が正解とは限らない。
合同会社ShakeHandsは、中小企業の人手不足・事業拡大に向き合い、採用・外注・AI活用の選択肢を整理し、最適な打ち手を設計するパートナーです。
売るための提案ではなく、経営判断としての選択を一緒に考えます。

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