カスハラ義務化まで5か月──“未対策7割”を抜ける3つの整備
2026年10月1日。この日から、カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為。以下「カスハラ」)対策が、すべての事業主に法的義務として課されます。改正労働施策総合推進法によるもので、中小企業向けの経過措置はありません。今日(2026年5月3日)から数えて、残りはおよそ5か月。にもかかわらず、東京商工リサーチが2024年8月に5,651社を対象に実施した調査では、中小企業の73.4%が「特に対策を講じていない」と回答していました。本日は、義務化までに整えるべき体制と、その先にあるもう一段深い経営課題について整理していきます。
改正労働施策総合推進法、ここを正確に押さえる
まず、義務化の中身を正しく把握しましょう。改正労働施策総合推進法は2025年6月4日に国会で可決・成立し、同年6月11日に公布されました。カスハラに関する部分の施行日は2026年10月1日です。これに先立ち厚生労働省は2026年2月26日、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を告示しています。
この指針が、企業に課される義務の中身を具体的に示しています。柱は次の4つです(出典:厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」)。
【厚労省指針が示す4つの柱】
・事業主の方針等の明確化と、その周知・啓発
・相談体制の整備と周知
・発生後の迅速かつ適切な対応、抑止のための措置
・相談者・被害者への不利益取扱い禁止など、併せて講ずべき措置
ここで重要なのは、「中小企業向けの経過措置がない」という点です。2020年6月施行のパワハラ防止法では、中小企業に2022年4月までの猶予が設けられていました。今回はそれがありません。10人の会社も、3人の会社も、義務の中身は変わらない。
そして、義務化以前から被害は深刻です。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年5月17日公表)では、過去3年間に勤務先でカスハラを受けた労働者の割合は10.8%。令和2年度の15.0%からは減ったものの、企業に「件数の傾向」を聞いた設問では、ハラスメント類型のうち「件数が増加している」が「減少している」を上回った唯一のハラスメントがカスハラでした。被害は減ったが、深刻度は増している。これが現実の構図です。
未対策7割の中身と、5か月で整える3つのこと
それでは、未対策7割の企業はなぜ動けていないのか。東京商工リサーチが2024年8月に実施した「2024年カスタマーハラスメントに関するアンケート調査」(有効回答5,651社)から、その輪郭を見てみます。
【講じている対策の内訳(東京商工リサーチ2024年調査)】
・特に対策を講じていない:71.5%(うち中小企業73.4%、大企業54.4%)
・従業員向けの研修を行った:12.4%
・従業員向けの相談窓口を設置した:8.7%
・カスタマーハラスメントの対応方針を策定した:6.3%
・カスハラ被害により従業員の休職や退職が発生:13.5%
相談窓口の設置は1割に届いていません。「研修だけはやった」という会社も、対応マニュアルや窓口は手つかず、というケースが珍しくない。理由はシンプルで、「何から手を付ければいいか分からない」「日常業務に追われて棚上げされている」というのが、私が経営者の方々と話していて感じる現実です。
そこで、義務化までの5か月を、優先順位をつけて使う方法を提案します。完璧を狙うと動けません。最低ラインを最短で押さえる。
【5か月で整える3ステップ】
1. 方針の明確化(1か月以内):「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」と明文化し、社員に周知。社長名の文書1枚で構いません。
2. 対応フローの作成(2か月以内):誰がカスハラを受けたら、いつ、誰に、どう報告し、どこで判断するか。担当者の言動を標準化する業務マニュアルです。
3. 相談窓口の設置(3か月以内):社内の人事担当でも、顧問の社労士・弁護士でも構いません。窓口があり、社員に周知されている状態を作ります。
3つを5か月で順次整える。それだけで、義務化の最低ラインはクリアできます。複雑に考える必要はありません。
本質は「コンプラ対応」ではなく「離職の構造的な原因を断つこと」
ここからは、私自身の見方です。
カスハラ対策の本質は、コンプライアンス対応ではなく、離職の構造的な原因を断つことだと考えています。
パーソル総合研究所が2024年6月5日に公表した「カスタマーハラスメントに関する定量調査」によれば、顧客折衝のあるサービス職の35.5%がカスハラ被害経験あり。さらに、カスハラ被害があった企業はなかった企業に比べて、年間離職率が1.3倍高い、という結果が出ています。被害経験率がもっとも高い職種は福祉系専門職員(介護士・ヘルパー)の34.5%でした。
「採用してもすぐ辞める」「現場が荒れる」「ベテランが疲れて休職する」──これらの裏側には、対応が個人に丸投げされ、属人化している現実があります。
ここで効くのが、業務整理という発想です。
「対応マニュアル化」と聞くと、「カスハラ専用の何か」を新しく作る話に聞こえるかもしれません。本質は違うんですよね。クレーム対応・顧客折衝という、もともと存在する業務を、属人化から解き放つ作業です。誰がやっても一定品質でカスハラに対応できる状態を作る、ということ。これは、合同会社ShakeHandsが日々お話している「業務の見える化」「標準化」「属人化解消」と完全に同じ営みです。
経営者の皆さんに、ひとつ問いたいんです。「もしベテランの相談員が突然辞めたら、明日から誰が同じ品質で電話を受けますか?」と。答えに詰まるのであれば、それはカスハラ義務化以前の経営課題が、今日も残っているということです。
カスハラ義務化は、この問いに答えるための、絶好のタイミングです。法対応のために動くのではなく、人が辞めない会社にするために動く。私はそう捉えています。
まとめ──5か月は、思っているより短く、思っているより使える
2026年10月1日まで、残りおよそ5か月。義務化はもう「来年の話」ではなく、「今期の経営課題」です。
完璧な仕組みを作ろうとすると動けません。社長名の方針文書を1枚出す。対応フローを1ページにまとめる。相談窓口の連絡先を社内に共有する。この3つから始めれば、5か月は十分間に合います。
そしてこの取り組みは、義務化対応にとどまらず、属人化解消・離職防止という経営課題そのものに直結します。法対応のために動くのではなく、人が辞めない会社をつくるために動く。義務化は、その背中を押す制度として活用してほしいと思います。
合同会社ShakeHands
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