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「全部自分でやる」が会社をダメにする

「経理も総務も、結局は自分がやっている」。中小企業の経営者であれば、一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。

マネーフォワードが2024年に実施したバックオフィス業務の実態調査によると、中小企業の58.2%が経理担当者「1人」で運用しているという結果が出ています。そして、その「1人」が社長自身というケースも珍しくありません。請求書の発行、経費精算、給与計算、振込処理——。本来は営業や戦略に使うべき時間が、毎月の事務処理に消えていく。この構造に、多くの経営者が気づきながらも手を打てていない現状があります。

(出典:マネーフォワード「バックオフィス業務の課題に関する調査」2024年実施)

「自分でやったほうが早い」の本当のコスト

「人に頼むより自分でやったほうが早い」——経営者からよく聞く言葉です。確かに、目の前の処理だけを見れば、そのとおりかもしれません。

しかし、少し引いて考えてみてください。社長の時間単価はいくらでしょうか。

たとえば年商3,000万円の会社で、社長が年間250営業日働いているとします。1日8時間として、年間の稼働時間は2,000時間。単純計算で、社長の1時間あたりの売上貢献は15,000円です。もし事務作業に1日2時間を使っていたら、年間500時間。金額に換算すると750万円分の時間を、事務処理に投じていることになります。

もちろんこれは概算ですが、「自分でやったほうが早い」の裏側には、見えないコストが積み上がっているということです。私はこの「社長の時間の使い方」こそが、中小企業の成長を左右する最も大きなテーマだと考えています。

あなたの会社では、社長の時間は何に使われていますか?

経理の現場が抱えている「3つの悩み」

ミロク情報サービスが2024年に企業の経理担当者362名を対象に実施した「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」では、以下のような結果が出ています。

【経理担当者が抱える業務の悩み TOP3】

・「業務の属人化」……50.0%

・「業務の煩雑さ」……43.1%

・「業務量の多さ」……32.0%

(出典:ミロク情報サービス「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」2024年6月実施)

注目すべきは、半数の経理担当者が「属人化」を最大の悩みとして挙げている点です。つまり、「自分しかやり方を知らない」状態で業務が回っている。これは裏を返せば、その人が休んだり辞めたりしたら、業務が止まるということです。

経理に限らず、総務や労務といったバックオフィス業務全般に同じ構造があります。そして、その「1人」が社長自身であった場合、社長が倒れた瞬間に会社全体が停止するリスクを抱えていることになります。

「事務は外に出す」が当たり前になりつつある

こうした課題を背景に、いま中小企業のあいだで事務業務を外部に委託する動きが急速に広がっています。

デロイト トーマツ ミック経済研究所の調査によると、バックオフィス業務のBPO(業務プロセスの外部委託)市場は2024年度で5,778億円規模に達し、年平均6.7%の成長率で拡大を続けています。2029年度には7,987億円に届く見通しです。

(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所「バックオフィス業務ビジネスプロセスサービス市場の現状と展望 2025年度版」)

さらに、マッチングプラットフォーム「ミツモア」のデータでは、事務代行サービスへの依頼数が前年比で5倍に急増したという報告もあります。外注したい業務のTOP3は「給与計算」「経理記帳」「勤怠管理」の順です。

(出典:BONavi「『採用しても定着しない』中小企業が選ぶBPOという"第3の選択肢"」2025年12月)

これらのデータが示しているのは、「事務は社内でやるもの」という常識が崩れ始めているということです。採用が難しい、定着しない、でも業務は回さなければならない。そうした状況の中で、「人を雇う」でも「我慢して自分でやる」でもない第3の選択肢として、業務の外部委託が急速に選ばれるようになっています。

「何を外に出すか」を決めることが、最初の一歩

では、実際に事務を外注しようとしたとき、何から始めればよいのか。ここで多くの経営者がつまずきます。

「うちの業務は特殊だから外に出せない」「引き継ぎの手間を考えると、自分でやったほうが早い」——これらは私もよく耳にする言葉です。しかし、本当に「特殊」なのでしょうか。

実際に業務を一つひとつ書き出してみると、驚くほど多くの作業が「手順さえ決まれば誰でもできる」ものだと気づくことがあります。問題は、その手順が社長の頭の中にしかないことです。

私が提案したいのは、次の3つのステップです。

第1ステップは、「社長がやっている業務を1週間記録する」こと。手帳でもスプレッドシートでも構いません。何に何分使ったか、ただ記録するだけです。

第2ステップは、「その中から『判断が不要な作業』を抜き出す」こと。請求書の送付、データ入力、ファイリング、定型メールの返信——。これらは「判断」ではなく「処理」です。処理は外に出せます。

第3ステップは、「まず1つだけ、外に出してみる」こと。いきなり全部を外注する必要はありません。月に数時間分の作業からでも、社長の時間が空く実感は得られます。

大事なのは、「何を外に出すか」を考える前に、「自分が今、何に時間を使っているか」を知ることです。業務を整理するという行為そのものが、経営判断の精度を上げてくれます。

社長の仕事は「作業」ではなく「判断」

中小企業の社長は、営業もやり、経理もやり、人事もやる。何役もこなすのが当たり前——そういう時代が長く続いてきました。

しかし、いまは違います。クラウド会計ソフト、事務代行サービス、AI-OCR(AIを使って紙の書類を自動でデータ化する技術)など、10年前にはなかった選択肢が次々と生まれています。バックオフィス業務のBPO市場が毎年7%近く成長している事実は、多くの経営者が「自分でやる」から「任せる」へと舵を切り始めていることの証左です。

社長の仕事は、請求書を作ることではありません。「次にどこへ営業に行くか」「どの事業に投資するか」「誰と組むか」——こうした判断にこそ、社長の時間は使われるべきです。

「全部自分でやる」を手放すことは、弱さではありません。それは、会社を次のステージに進めるための経営判断です。

まずは今日、自分の1日の時間の使い方を振り返ることから始めてみてください。


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