初任給を上げても新人が辞める会社の共通点───受け入れ準備は”業務の整理”から
帝国データバンクの2026年度調査によると、新卒の初任給を引き上げる企業は全体の67.5%に達しました。引き上げ額の平均は9,462円で、「初任給25万〜30万円」の企業が2割近くまで増えています(出典:帝国データバンク「初任給に関する企業の動向アンケート 2026年度」)。
しかし、初任給を上げれば新入社員が定着するかといえば、そう単純ではありません。4月の入社シーズンまであと2週間を切った今、「給与を上げたから大丈夫」と考えている経営者の方にこそ、知っていただきたいデータがあります。
半年以内に辞める新人が「半数以上の企業」で発生している
エン・ジャパンが2025年に実施した「早期離職」実態調査(対象:直近3年以内に入社者がいた企業291社)では、衝撃的な数字が並んでいます。
【中小企業の早期離職 実態データ】
・直近3年で「半年以内での早期離職があった」企業は57%
・早期離職の要因1位は「仕事内容のミスマッチ」(57%)
・49名以下の企業でも46%が早期離職を経験
・出典:エン・ジャパン「早期離職 実態調査」2025年
ここで注目していただきたいのは、離職理由の1位が「給与への不満」ではなく「仕事内容のミスマッチ」だという点です。
「思っていた仕事と違った」──この一言で辞めていく新人の背景には、実は受け入れ側の問題が潜んでいます。業務の内容や範囲が曖昧で、何をどこまでやればいいかわからない。教えてくれるはずの先輩は自分の仕事で手一杯。そもそも業務マニュアルが存在しない。
LUF株式会社のプレスリリースによると、新入社員の定着は「入社後の90日間」でほぼ決まるとされています(出典:LUF株式会社 PR TIMES)。つまり、4月に入社した新人が7月までにどんな体験をするかが、その後の定着を大きく左右するのです。
「新人にマニュアルを作らせる」という逆転の発想
「マニュアルを作る余裕がない」──中小企業の経営者からよく聞く言葉です。
ITセキュリティ企業のLRM株式会社(従業員約60名)では、この課題をユニークな方法で解決しました。マニュアルを先輩が作るのではなく、「新入社員自身に作らせる」というアプローチです(出典:Teachme Biz「新入社員受け入れのための4ステップを解説」)。
新入社員が業務を教わりながら、自分の言葉でマニュアルを書いていく。この方法には3つのメリットがあります。
・新入社員側:「教わる」だけでなく「まとめる」ことで、業務理解が格段に深まる
・先輩社員側:一から十まで教える負担が減り、自分の業務時間を確保できる
・会社全体:ベテランには気づけない「初心者がつまずくポイント」が可視化される
また、厚生労働省が公開している「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」では、3〜5日間の体験入社を導入した企業の事例も紹介されています。入社前に実際の業務を体験してもらうことで、入社後のミスマッチが大幅に減り、離職率が約10%低下したとのことです(出典:厚生労働省「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」)。
これらの成功事例に共通するのは、「業務の中身を、新人にも見える状態にしている」ということです。
「受け入れ準備=業務の棚卸し」という視点
ここで、経営者の皆さんに問いかけたいことがあります。
「今の業務を、明日入ってくる新人に説明できますか?」
もし答えに詰まるなら、それは新人の問題ではなく、業務が整理されていないサインかもしれません。
新入社員の受け入れ準備というと、デスクの用意やPCの設定、歓迎会の段取りを思い浮かべる方が多いと思います。もちろんそれも大事ですが、本当に必要な準備は「この人に何をやってもらうか」を明確にすることだと私は考えています。
具体的には、以下の3つを言語化できているかどうかが分かれ目です。
・この業務は「何のために」やるのか(目的の共有)
・「どこまで」できるようになってほしいのか(3カ月後のゴール)
・困ったときに「誰に聞けばいいか」(サポート体制の明示)
この3つが曖昧なまま新人を迎えると、「何をすればいいかわからない」→「聞いても忙しそうで聞けない」→「自分には向いていないのかも」という負の連鎖が始まります。逆に、この3つさえ整理されていれば、新人は自分の役割を理解し、小さな成功体験を積み重ねて、会社に居場所を見つけていきます。
まとめ:初任給の前に、「仕事の中身」を整えよう
4月の入社シーズンはもう目の前です。初任給の引き上げに力を入れることは大切ですが、それだけでは新人は定着しません。
私は、新入社員が早期に辞めてしまう最大の原因は、「仕事内容のミスマッチ」そのものではなく、「仕事内容が整理されていないこと」だと考えています。業務が見える化されていれば、新人は自分の役割を理解できる。成長の実感を得られる。そして、会社に残る理由を見つけられます。
4月まであと2週間。今からでもできることがあります。まずは「新人に任せたい業務」を1枚の紙に書き出してみてください。業務の名前、目的、やり方、相談先──たったこれだけで、受け入れ準備の景色が変わるはずです。
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