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構造的空隙とは? 組織はつながり方で強くなる—サイロを壊す新たなマネジメント

なぜ多くの大企業で部門の壁が問題になるのでしょうか?
なぜサイロ化が叫ばれ続けているのでしょうか?

これらの組織課題の根本には、ネットワークの分断があります。優秀な人材が各部門にいるにも関わらず、その知識や情報が組織全体で活用されない。イノベーションが生まれにくく、変化への対応が遅れる。

こうした現代企業の課題を解決するカギとして注目されているのが、シカゴ大学ビジネススクールの社会学者 ロナルド・S・バートが提唱した構造的空隙(structural holes)という概念です。

ロナルド・S・バート
Source : https://icrios.unibocconi.eu/

構造的空隙は社会的ネットワーク理論に含まれる概念の一つです。
上司・部下といった縦の関係、同期や同僚といった横の関係に加え、部署や階層をまたいだ斜めの関係を含めて築かれる多方向性のネットワークの重要性を裏づけています。経営学的な視点から見ると、こうした多方向のつながりはキャリア形成や組織の競争優位に直結する資産なのです。

そこで今回は構造的空隙の概念と、構造的空隙を埋めるハブ的役割を企業に導入する具体的なメリットについて解説します。

(著:小島美佳)


構造的空隙とは何か?

構造的空隙を理解するには、まず社会的ネットワーク理論の基礎を押さえておく必要があります。


社会的ネットワーク理論の基本

社会的ネットワーク (social network) 理論とは社会科学の専門用語で、人々の関係性をネットワークとして捉え、その構造が個人や組織にどのような影響を与えるかを研究する理論です。

私たちは皆、家族、友人、同僚、知人など様々な人とつながりを持っており、これらの関係の網目が社会的ネットワークを形成しています。この理論では、「ノード (nodes, 点、ネットワークに関わりを持つ個々人)」と「つながり(ties, 線、関係者間の結びつき)」という観点から、ネットワーク全体の構造や特徴を分析します。

重要なのは、単に誰と知り合いかということではなく、そのネットワークがどのような形をしているかということです。


構造的空隙(Structural Holes)の定義

構造的空隙は、ネットワーク内で互いに直接つながっていない集団や個人の間に存在する隙間、空白のことを指します。

  • バートの理論によれば、ネットワーク内で直接的なつながりがないノード(個人や組織)間に存在する空隙が、情報の流れを制限します。一方、この空隙を埋め、所属する主なネットワークの外側で他の主体者と緩やかにつながる(weak ties, 弱いつながり)ことで、異なるグループやより広い範囲の多様な情報やリソースにアクセスできるようになります。

  • 構造的空隙は主に人を介して埋まるものです。具体的には、異なる組織で橋渡しの役割を果たす個人や組織が、情報やリソースの流れを促進します。このような役割を果たす人々はブローカー(broker)ブリッジ(bridge) と呼ばれます。


構造的空隙を埋め、多方向のネットワークを構築するメリット


現代のビジネス環境において、成果を大きく分ける要因は「どれだけ多様なネットワークに接続できるか」にあります。これは単なる人脈作りではなく、学術的にも、実務的にも裏付けられた知見です。

ここでは、研究結果をもとにした視点と、実践することで得られる具体的なメリットを4つご紹介します。


1. 個人キャリアの視点:昇進と評価を左右するネットワークの隙間

前述のRonald Burt(2004, Structural Holes and Good Ideas, American Journal of Sociology、詳細は文末に記載しました)の研究は特に有名です。
彼は米国大手企業の管理職673名を対象に調査を行い、ネットワークの隙間を橋渡しするブローカーと呼ばれる人々が、より早く質の高いアイデアにアクセスし、昇進や報酬、評価において優位に立つことを実証しました。

構造的空隙を埋める位置にいる人物は、より多くの情報にアクセスでき、異なる人たちをつないで価値を創出するために周囲からの信頼を蓄積します。

具体的には:

  • 昇進や評価の機会を得やすくなる

  • ネットワーク上のブローカー的存在は、組織成果に貢献するだけでなく、個人キャリアにおいても優位性を発揮します

  • 昇進を意識しすぎていると気持ち悪いですが、自然とそのようにできる人が一目置かれるようになるのは納得です


2. 組織・企業の視点:イノベーションは"つながり方"で決まる

Ahuja(2000, Administrative Science Quarterly) の研究では、企業間・企業内のコラボレーションネットワークを長期的に追跡し、直接的なつながりだけでなく、間接的な接点や構造的空隙を埋める関係が 新製品開発や特許取得といったイノベーション成果を高める ことが示されました。

これは、個人だけでなく組織レベルでも、多方向性ネットワークが競争力の源泉になることを裏づけています。

実践によるメリット:

  • 多様な情報源からのインプットが、新しいアイデアや新規事業、イノベーションの源泉となる

  • 異なる業界の視点から自社を見る、異なる専門性や立場を持つ人材をつなぐことで、様々な観点からの議論が可能に

  • 「技術部の新技術」×「営業部の顧客ニーズ」=「新サービス」といった組み合わせで、これまで蓄積された点と点が結ばれる機会が増える


3. チーム・実務の視点:サイロを壊す企業はなぜ強いのか

  • McKinsey Quarterly(2016)は、部門横断的な協働がなぜ難しいか、そしてどのように設計すれば効果を発揮するかを分析しています。クロスファンクショナルな取り組みは、プロセス改善や製品開発のスピード・品質を高めることが示されています。

  • また2023年のMcKinseyレポートでも、イノベーター企業はサイロを破り、部門を超えたチームとデータ統合によって成果を生み出していることが強調されています。

実践によるメリット:

  • チームメンバーが異なる世界と多様なつながりを持つことで、チーム全体のパフォーマンスが向上

  • 新規事業の開発に関する相談で、部門間の情報共有がパフォーマンス向上につながる

  • 縦割り構造では情報が届きにくい一方、橋渡し役の人材を通じて重要な情報が組織全体に迅速に拡散し、意思決定スピードが向上

このように研究や実務知見は、現代ビジネスにおける多方向性のネットワークの重要性を示しています。

4. 組織の柔軟性向上:環境変化への適応力を高める

縦割り構造では情報が届きにくい一方、構造的空隙を埋めうる橋渡し役を担う人材を通じて、重要な情報が組織全体に迅速に拡散し、組織全体の適応力が向上します。

実践によるメリット:

  • 様々な部門の情報を統合できる人材が、変化の兆しを早期にキャッチ

  • 部門間の調整がスムーズになり、チームや組織全体の意思決定スピードが向上

  • 環境変化への対応力や組織の柔軟性が高まる

さらに、バートによると有益な情報を効率的に得るためには「重複しないコンタクト」を多く持つことが重要と指摘しています。つまり多様な接点を築くことこそが、個人と組織の持続的な成長を支える鍵となるのです。

こうした知見は実務記事にも反映されています。Harvard Business Review(2024)は、組織内で幅広いネットワークを持つ管理職ほど、機会の獲得やイノベーション推進において有利であると紹介し、具体的なネットワーキングのステップを提示しています。



まとめ

構造的空隙の活用は、大企業が持つ規模の利益を最大化しながら、大企業病と呼ばれる硬直化を防ぐ有効な手段となります。

重要なのは、単発的な施策ではなく、組織文化として定着させることです。多方向性のネットワークや様々な業界との接点、重複しないコンタクトを複数持ち、部門・組織間の壁を越えた協働を促進することで、現代企業が直面する様々な課題を解決し、競争優位性を確立しやすいカルチャーを育むことができるでしょう。

つまり、多方向につながることは単なる人脈づくりではなく、研究で裏づけられた競争優位性の源泉 なのです。


※参考資料 2004年, Burtの構造的空隙に関する研究論文の概要

バートの2004年の研究では、米国の大手電子機器メーカーの管理職673名を対象に行われ、そのうち455名から詳細なネットワークデータ(「誰とアイデアや業務の相談をするか」など)を収集しています。
分析に用いられたのはネットワーク制約(constraint)と呼ばれる指標で、これは 自分の人脈がどれだけ互いにつながっているか(=閉じているか) を示すものです。制約が低いほど、異なる集団同士をつなぐ構造的空隙を多くまたぐ立場にある、つまりブローカー的役割を担っていると解釈されます。
さらに、年齢・職階・勤務年数といった統制変数を加えた上で回帰分析を行った結果、以下の知見が明らかになりました。

良質なアイデアへのアクセス:ブローカー的立場の人ほど、より早く新しいアイデアに到達しやすく、そのアイデアが高く評価される傾向がある。
昇進・報酬での優位性:ネットワーク制約が低い人材は、昇進の機会を得やすく、報酬や評価も高くなる傾向が確認された。
階層別の特徴:ディレクターやバイスプレジデントといった上位管理職ほど、ネットワーク制約が低く、広く多様な人とのつながりを持っている。

バートはさらに、ブローカー行為にも段階があると指摘します。単に情報を仲介するだけでなく、異なる部署間のプラクティスを翻訳したり、共通点を見出して統合したりする高度な知の橋渡しが、最も大きな付加価値を生むというのです。

つまりこの研究は、「多様なネットワークを持つことが個人のキャリアと組織のイノベーションに直結する」ことを統計的に裏づけています。

Burt, 2004, Structural Holes and Good Ideas

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