嘘の蕾 【#チャレがや】
あたしの中には嘘の蕾がある。
いつからあるのかわからない。けれど、確かにそこにある小さな蕾。固く閉じた蕾は、咲頃を知らない。
「可愛いね」
「好きだよ」
甘く囁く男の声に、あたしの心が無邪気に揺れる。あの頃のあたしは、何もわかっていなかった。
男のがっちりとした首筋に縋りつき、揺れ惑う瞳を閉ざす。
「ねぇ、好きよ」
「好きなの。愛しているの」
男は微笑みながら、こう返すのだ。
「俺も、愛しているよ」
男は言葉をくれる。
男は愛をくれる。
男は男自身をくれる。
でも、あたしは知っていた。
男は、その心をくれないのだ、と。
一糸まとわぬ身体にくっつけば、見知らぬ甘い香りがする。ひとつふたつじゃない。彼はいつも、別の香りに包まれている。
あたしのものだとマーキングしても、きっと、別の女に上書きされていくのだろう。
彼の本当の香りをあたしは知らない。
「ねぇ、好きよ」
あたしの中の嘘の蕾は、今にも咲きそうに疼かせる。けれど、それを必死に押さえつけて微笑むのだ。
嘘の蕾は、蕾のままでいい。
こちらの企画に参加しています。
思いつくままに書いたけれど、楽しかったです!
短いものがたりを書くのも、息抜きになったり、自分の中の世界を広げられるので大好きです。
