見出し画像

空にほどけた、書けない私。

──タイトル未設定。

ずらり、と画面に並ぶ7文字。整列した文字たちが私に無言の圧をかける。書けないのか、と。実際、記事を開けば短い2、3文がひっそりと佇んでいた。書きかけてやめた言葉たち。消して、散り散りにするにはもったいなくて、そのまま放置していた。書きたくないわけじゃない。……うまく、まとまらないだけで。部屋に効いた冷房が指先を冷たくさせる。口から漏れた息が気だるげに床へと落ちていった。

余裕がなくなるといつもこうだ。
脳内は当てもなく言葉が流れて、止まることを知らない。だらだらと響き続ける呪文のよう。呪文の効果か?頭がどんどん重くなっていく。そこに比例するように身体にも力が入る。頭も身体もガッチガチ。それが、自分にとって辛くて悲しくて……。何より、苦しい。

いいモノを書きたい。書き出しは興味を惹くように。メリハリをつけて。起承転結は?比喩は?何を書いたら読まれるんだろう。評価されるんだろう。この文章は面白いの?……この世に、必要なの?

カチコチな自分の中に流れる言葉は、自分を縛りつける鎖。きつく縛られたら、なかなか解くことはできない。もがけばもがくほど、思考の海に沈み、溺れていく。もう、書くことなんてできないのかもしれない。嫌な思考のラジオを聴き流すようにそっと画面を閉じた。そして、本棚から1冊のノートを取り出す。どこまでも吸い込まれそうな夏の空色のノート。私が苦しくなった時に頼る降り注ぐ太陽のようなノート。それが、こいつだった。

ぱらり、とノートをめくり、日付を書く。それができれば大丈夫。あとは、自分に任せるだけ。その場で浮かんだら言葉をただただ書き連ねていく。なんにも気にしない。たとえ、荒れ狂った波のような文字だとしても。私の素直な気持ちがそこに表れているから。爽やかな風の音も小うるさい蝉の声も私には聴こえない。ただ無心に言葉を並べていく。ノートの真っ白いページが字の黒さに染まっていく。染まる割合が増えるにつれ、私の心はゆっくりとほぐされていった。誰に見せるわけでもない文字。ジャッジをされない文字たちは楽しそうにノートの上で踊っている。私も、このくらい自由に踊りたい。評価という枷を外して、泳ぎ続けたい。どこまでも続いている地平線の先へ。

ジャッジ。
握っていたペンを止める。私を縛る鎖を端的に表すとこの3文字だった。バズる作品が良いのか。読まれる作品が良いのか。何が上で何が下なのか。心の奥のどこかで勝手に判断していた。私の中の色眼鏡……モノを曇らせて見せるから色サングラスなのかもしれない。そいつを無意識にかけていた。誰かに何かを言われた訳でもないのに。自分の中で勝手に判断基準をつくる。そりゃあ、苦しいわけだよ。じんわりとした暑さで汗が滲んだ。
この世界に良い悪いもない。上も下もない。みんながそれぞれ、そこに在るだけ。ひとつひとつが何よりも尊い記事なんだ。だから……だから、大丈夫だよ。私は私に言い聞かせる。指先の冷えはいつの間にか消え、やる気が少しずつたまっていた。ノートの空色と窓から見える深い青空が溶け合い、共鳴している。混ざりあった夏の空気が私の背中を押していた。



灯火杯、参加してみました。はじめてなので、ドキドキしています。
灯火さん、どうぞよろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!