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「医療費を下げたい国」と「新薬を作りたい企業」――誰が損をして、誰が得をするのか?

「令和6年10月から、ジェネリック医薬品がある薬については、先発医薬品を希望すると追加料金がかかります」

そんな通知を受け取った人も多いだろう。見方によっては、たったこれだけの話。けれど、少し立ち止まってみると、なかなか根深い制度変更でもある。

「え、選ぶ自由ってなかったの?」「効果が同じなら安い方がいいでしょ」という声もある一方で、「ずっと飲み続けてきた薬なのに、急に有料オプション扱いされるのは納得いかない」と感じる人もいる。感情の揺れ方に個人差はあれど、この制度変更が目指しているのは明快だ――医療費の削減と、ジェネリック医薬品の使用促進である。

もちろん、表向きは「患者さんの自己負担を抑えるため」だとか、「薬の選択肢を広げる」ためと説明されている。しかし、どう見てもこれは、“選ばせない”ための設計である。



日本の医療費は増え続けている

日本の医療費は右肩上がりで増え続けている。とくに高齢化によって、薬にかかるコストは年々ふくらんでおり、国としても「なんとかしないと持たない」状態が続いている。そこで期待されているのが、価格の安いジェネリック医薬品への切り替えだ。

実際、ジェネリックは先発薬と比べて2〜9割ほど安い。患者負担が減るだけでなく、保険財政にも優しい。これまでにも厚労省はジェネリックの使用を推奨してきたが、それでも「名前を聞いたことのある薬だから」「昔からこれを使っているから」と、先発薬を選ぶ人は多かった。

そこで出てきたのが今回の“ペナルティ方式”だ。つまり、「あえて高い方を選ぶなら、自己責任で追加料金を払ってね」というシステムである。



合理性の裏で切り捨てられるもの

一見、合理的だと思えるかもしれない。

だが、その“合理性”の裏側で切り捨てられているのは、「薬を選ぶ自由」であり、「安心して続ける権利」かもしれない。

薬の効き目は、厳密には同じ成分であっても、製造工程や添加物の違いなどから“体感”としては差が出る場合もある。医師のなかには「ジェネリックでは不安定だったが、先発薬に戻したら安定した」という経験を持つ人も少なくない。

にもかかわらず、制度はこう言う。「それでも高い方を選ぶなら、追加で払ってください」と。



先発薬がなければ、ジェネリックは存在しない

ここで忘れてはならないのが、「ジェネリックは、そもそも先発薬が存在して初めて作れる」という事実だ。

先発薬は、製薬会社が10年以上の歳月と、数百億円もの費用を投じてようやく生み出す“オリジナル”である。しかもその成功率は非常に低く、多くの候補が治験や審査の段階で脱落していく。

そうしてようやく市場に出た薬も、特許期間が終われば、次々と安価なジェネリックが登場し、あっという間にシェアを奪われる。

そして今回のように、「あえて先発を選ぶなら追加料金を」という制度が強化されればされるほど、製薬会社はこう思うかもしれない――「もう、日本向けに新薬を開発するのはやめようか」と。



日本市場の魅力が失われつつある

実際、近年では日本市場における新薬の投入が遅れたり、見送られたりする事例も増えている。

理由は明確だ。価格の統制が厳しく、採算が合いにくい。保険適用のハードルも高く、国による価格の引き下げも頻繁にある。そして今後は、「売れてもペナルティ対象になる」という構造まで加わる。

これで誰が得をするのだろうか。

患者にとっては、「安くなるから得」と思うかもしれない。だがその裏で、“本当に必要な新しい薬”が日本に入ってこなくなる未来があるとしたら? それは果たして「得」と言えるだろうか。



制度は“選ばせない”ためのものになっていないか

制度は、誰かの行動を“変える”ために作られる。今回の変更は、先発薬をあえて選ぶ人の行動を“思いとどまらせる”ために設計された。

しかし本来であれば、「なぜジェネリックにしても大丈夫なのか」を丁寧に説明する制度こそが先に来るべきだったのではないか?

言い換えれば、“選ばせない制度”ではなく、“安心して選べる制度”こそが、持続可能な医療への道だったはずだ。



医療制度を、信頼から壊さないために

医療はコストでもあるが、同時に信頼でもある。効率を追求するあまり、その信頼を削ってしまえば、本末転倒だ。

今回の制度変更は、私たちに問いかけている。果たして、安ければそれでいいのか。選択肢を狭めることが、ほんとうの意味での「合理性」なのか。

ジェネリックを否定するつもりはない。ただ、それが“安いから”という理由だけで強制されるようになるなら、私たちは少し立ち止まって、その構造を観察する必要がある。

「この制度は誰のためか?」

その問いが、これからますます重要になってくる。

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