第九章 静かに、自分を取り戻すために
宗教には次第に嫌悪感を抱き、両親に対しても拭いきれない不信感を持つようになっていた。
あの頃の私は、心が押し潰されそうなほど苦しい精神状態だったのだと思う。
働いていた美容室もまた、同じ宗教を熱心に信仰している環境だった。
大阪とはいえ、田舎の小さな美容室。
私はただ、
「もっと美容師として技術を磨きたい。」
その一心で、大手美容室への移籍を決意する。
そこは北新地への出勤にも通いやすく、数々のヘアショーを手掛け、有名講師による講習も行われる、私にとって憧れのサロンだった。
両親には移籍先も住む場所も伝えず、今までお世話になった先生や先輩方にも、敢えて知らせなかった。
誰にも縛られず、少しだけ自分自身と向き合う時間が欲しかった。
あの頃の私は、ただ静かに、自分の人生を考えたかったのだと思う。
そうして私は、一人、高層マンションでの暮らしを始めた。
長屋で育ち、共同住宅を経て辿り着いた高層階。
窓の外に広がる夜景は綺麗だった。
けれど、心の中はまだ晴れてはいなかった。
本当の意味で人生を取り戻すには、もう少しだけ時間が必要だった。
