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短編エッセイ|一人の私が好きだった


プロローグ|出会い


友だちの紹介だった。
婚活に疲弊していた私には、
彼のことがよりよく見えたんだろう。

自然な出会い、婚活じゃない恋。

あっという間にそれは始まった。

彼は奥手な方だった。
彼女も今まで一人しかいないと、
恥ずかしそうに話していた。

初めてのデートの帰り道。
沈黙が続いて、
結局、
彼は何もしてこなかった。

だから私からキスをした。
「教えてあげる」
そう言って自分で火をつけた。
そこからは、
なし崩しだった。
気づけば、
ほとんど彼の家で過ごすようになっていった。



一章|寂しいと思い込んでいた


すれ違いで、
彼とはなかなかできなかった。
それでもたまに休みがあると、
私から言い出した。
勇気を出して。
でも彼はいつも、
経験がなくて自信がない。
ごめん。
そう私を拒絶した。
理由は今もわからない。

私は、
拒否されたことに心を砕いていた。
ただたまらなかった。

毎晩、静かに時が流れるのを待っていた。

彼が朝帰ってくるまでの間。

食事は一人分。

納豆ご飯を、味わうでもなく流し込んだ。

眠りも浅くて、
まるでいつ帰ってきてもいいように、
準備したままでいた。

寂しかったのか、
そうじゃなかったのか。

その時の私には、
まだわからなかった。

一人の夜だけが、
静かに長かった。

何のために一緒に暮らしているんだろう。
そう思いながらも、
どこかであっさり諦めている自分もいた。



二章|彼が突然、毎日いるようになった


いつもは朝帰りなのに、
その日は夕飯時に帰ってきた。

珍しいと思いながら、
簡単な夕食の支度をしていた私は、
手を止めた。

「どうしたの?」

彼はいつもと変わらないトーンで、
ぼそっと言った。

「仕事、辞めてきた。」

悪びれる様子は、一切なかった。

私は驚きと同時に、怒りが込み上げてきた。
「なんで相談してくれなかったの。」

それは問いかけじゃなかった。
その瞬間、私の中で何かが静かに外れた。

この人と結婚する。 

その約束が急に遠くなった気がした。

その日を境に、私の生活が一変した。

仕事が見つかるまでと言って、
毎日家にいるようになった。

彼は趣味もなく、
友だちも少なかった。
仕事を辞めた彼には、
家にいる以外やることがなかった。


ここから初めて、
本当の意味で同棲生活が始まった。

それは初々しさもない、
わずかに残った愛情を携えた、
打算的な、
ただ生活を共にする二人だった。



三章|耐えられなくなっていく


何をするでもなく、
テレビを見て過ごす彼に苛立ちを覚えた。

今まで、この部屋は私だけのものだった。

彼がいない夜の静けさも、
纏う空気も、
全部私のものだった。

でも彼はただそこにいるだけで、
私の場所を静かに侵していく。


何かをされたわけじゃない。

怒鳴られたわけでも、
傷つけられたわけでもない。

ただ、いる。

それだけで、息ができなくなった。

彼は何も悪いことはしていないのに。

愛の言葉はないし、
変わらず抱いてはくれない。

でも生活の面倒は見てくれる。
彼は何も変わっていない。

変わってしまったのは、私の方だった。

一人の時間がないことで、
彼と一緒に過ごすことに、
苦痛を感じ始めた。

わずかな愛情は、簡単に手放した。
それが不快に変わっていた。

そんな自分にも嫌気がさした。



エピローグ|一人の私が好きだった


あっという間の半年だった。
そのうちの半分以上は一人だった。

彼と結婚したいと、
ちゃんと思っているときもあった。

どこでボタンをかけ間違えたんだろう。

気付いてしまった彼といる私より、
一人の私の方が自分らしくいられる。

私は、一人の私が好きだった。

別れは、私から一方的に告げた。

彼はまるで察していたかのように、
あっさりしていた。
少しはすがって欲しかった。
虫のいい話だけど。

その一週間後、
行き場のない私は、
都会のシェアルームに引っ越した。

小さな部屋に、自分の荷物だけ。
ひどく窮屈だ。

それなのに
不思議と息ができた。

ただそれに気づいてしまったんだ。



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