【英語の話49】 教室の女
カレッジに通っていた頃の話だ。
新しいクラスが始まる日、教室に早めに着いて席に座っていた。
ドアのあたりが少しざわついているような気がして目をやると、
当時の彼氏が出入口のところで女性と話していた。
え?と思っていたら、
彼氏が私に気づいて、ハイ!と手を振った。
彼はルックスのいい人だったので、よくモテた。
女性の方は、彼に話しかけに行ったのだろう。
でも彼は私に気づいて、「彼女をよろしく」
みたいなことを言って去っていった。
その女性は、私と同じクラスだった。
講師が来るのを待っている間、彼女は私に話しかけてきた。
「本当に彼と付き合ってるの?彼女なの?」
うん、そうよ、と答えた。
それからしばらく話したのだが、どういう流れだったか、
彼女が突然こう言ったのだ。
「あなたはそうでもないじゃない。
でもほら、私、胸がこんなに大きいからぁ」
どやっ、という顔だった。
私は顔が引きつったと思う。
え、なんで今それを言うの?という困惑と、
なんと返せばいいのかわからない戸惑いと。
とにかく、すごく変な空気だった。
彼女はラテン系で、確かに胸は大きかった。
私の身長は165センチある。
日本人女性の平均よりは高い。
ただ、あの時ずっと席に座っていたので、
彼女には実際の身長はわからなかったはずだ。
座っていると小柄に見られることが多かったので、
彼女が見ていたのは私ではなく、
アジア人女性への思い込みだったのだろう。
彼氏を狙っていたのに、「彼女」が存在した。
しかもアジア人。
だから…
アジア人女性は胸が小さい、という図式で、
自分のほうが上だと言いたかったのだろうか。
思い返せば、似たようなことを祖母にも言われたことがある。
ただ祖母の場合はどやっではなくて、
「だから着物も洋服も合わないのよね」という話の流れで、
さらっと出てきた言葉だった。
悪意というより、世代の感覚だったのかもしれない。
でも、どちらも女性から言われた言葉だ。
女性同士がマウントを取り合うのが、私は本当に苦手だ。
男性をめぐってだけじゃない。子育てだって、
「一人育てただけじゃわからない」
「二人育てて初めてわかる」
「三人育ててようやく……」と、際限なく続く。
経験を積み重ねるのはいいことだ。
でもそれは、誰かを下に見るためじゃないはずだ。
女同士、もっとうまくやれると思うのだけれど。
あの日、教室の女が何を思っていたかはわからない。
でも、あのどや顔だけは、
三十年経った今もはっきり覚えている。
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