【宇宙物理学・天文学】ダークエネルギーとは何か
──宇宙を加速膨張させる見えない力
ダークエネルギー。とてもSFっぽい響きの単語ですよね。暗黒エネルギーとも呼びます。普段科学系のニュース等に触れる機会のない方は聞いたことのない単語かもしれませんが、これはれっきとした科学用語です。今回はそんなSFワードなダークエネルギーについて解説致します。
1. 宇宙は膨張している、しかも膨張速度は加速中
20世紀初め、アインシュタインが一般相対性理論を発表した当時、アインシュタインを含め多くの科学者は「宇宙は静的で変わらない不変なもの」と考えていました。
しかし1920年代、エドウィン・ハッブルが観測結果から全ての銀河が地球から遠ざかっていることを発見しました。しかも地球から遠い銀河ほど遠ざかるスピードが速い。これが何を意味するかというと、宇宙全体が膨張しているということです。
宇宙は膨張している…!
それだけでも大きな驚きでしたが、さらに1998年、別の衝撃的な発見がありました。
遠方の超新星という星の明るさを詳しく測った結果、宇宙の膨張速度が加速していることがわかったのです。
遠い銀河の特定の超新星は“標準の明るさ”を持っており、その光の強さから距離を測ることができます。これらの距離と赤方偏移(銀河が遠ざかるスピードの指標となるものです)を比べると、昔の宇宙よりも今の宇宙のの方が膨張速度が速いことがわかりました。
重力は引き合う力なので、宇宙にある物質(恒星だけでも20,000,000,000,000,000,000,000個もある!)の重力によって星々は徐々に近づいていくはずです。そしてその重力によって、宇宙自体もいつかはビッグバンの勢いを失って膨張から収縮に転じるはずだと考えられていました。しかし、観測で得られたのは真逆の事実でした。なぜ宇宙の膨張は止まるどころか、むしろ加速しているのでしょうか。ここで登場するのが「ダークエネルギー」です。
2. ダークエネルギーとは
ダークエネルギーとは、宇宙の膨張を矛盾なく説明するために存在が予想された未知のエネルギーです。
宇宙が加速膨張しているということは、宇宙全体に広がって存在し、重力に逆らって宇宙を押し広げる“反発するエネルギー”のようなものが存在するはずだと考えられました。この未知の存在をダークエネルギーと名付けたのです。
ダークエネルギーは目には見えず、現在の技術では計測や観測もできません。つまりは正体不明です。
見えもせず観測も出来ないのなら、存在しないと考えるのが日常的な感覚です。しかし「他の観測結果から存在を推測できるのであればそれは確かに存在するのであって、それを観測する技術や手法がまだ確立されていないだけなのではないか」と考えるのが科学的思考というものです。
現在の宇宙の構成要素のうち、なんと約68%がこのダークエネルギーだと考えられています。
その他は、私たちが認識できる通常の物質(元素や素粒子など)がわずか5%、暗黒物質という物質が約27%です。
つまり、現在の科学では宇宙の大部分は正体不明なのです!
3. 正体の候補たち
ダークエネルギーの本質はまだ謎ですが、その正体についてはいくつかの仮説があります。
・宇宙定数(Λ・ラムダ)説
アインシュタインがかつて相対性理論に導入した「宇宙定数」が再評価されています。
宇宙定数とは、アインシュタインが「宇宙は不変的なもののはずだ!」と信じたいがために無理やり導入したもので、後に宇宙の膨張が観測されるとアインシュタインをして「人生最大の過ち」と言わしめた代物です。
しかし、宇宙の膨張が加速していることがわかると、この宇宙定数が実は過ちではなかったかもしれない可能性が出てきたのです。
宇宙定数を真空そのものが持つエネルギーとし、空間が存在するだけで反発力が生じると考えると、ダークエネルギーの存在をうまく説明できるのです。
数式的にシンプルで支持も多い説です。
・スカラー場(クインテッセンス)
時間や空間によって強さが変化する未知のエネルギー場が広がっているとする考えです。
宇宙定数よりも柔軟なモデルで、観測結果をより精密に説明できる可能性があります。
・重力の法則の修正
そもそも一般相対性理論が宇宙全体規模のスケールでは完全ではなく、重力の法則そのものを見直すべきだとする考えもあります。
これが正しければ、物理学の根本が書き換わることになります。
4. 宇宙の未来を左右する存在
ダークエネルギーの性質次第で、宇宙が辿る未来は大きく変わります。
ダークエネルギーの力の強さが今のまま一定なら、宇宙は加速し続け、銀河はどんどん離れていき、最終的には暗く寒い“ビッグフリーズ”が訪れるでしょう。
もしダークエネルギーの力が時間とともに強くなっていくなら、「ビッグリップ」と呼ばれるシナリオが待っています。宇宙のあらゆる構造が引き裂かれ、銀河、星、原子すらバラバラになる可能性があります。もちろん私たち人間もバラバラです。
逆にダークエネルギーの力が弱まっていけば、膨張が止まり、重力で宇宙が再び収縮する“ビッグクランチ”の未来もあり得ます。
5. 身近な感覚とつなげてみる
「宇宙の加速膨張」というと遠い話に思えますが、実は私たちが存在できる背景そのものに関わっています。 もしダークエネルギーの力が今よりもっと強かったら、或いは逆に弱かったりしたら、銀河が生まれず、生命が存在する環境もなかった可能性が指摘されているのです。
私たちが夜空を眺め、過去や未来を想像できるのも、宇宙のエネルギーバランスが奇跡的に成り立っているからだと考えると、少し身近に感じられます。
6. 未知と向き合う科学の最前線
ダークエネルギーの研究は、宇宙論の最大の挑戦のひとつです。CMB(宇宙マイクロ波背景放射)の精密観測、銀河分布の大規模調査、重力レンズ効果の解析など、多くの国際プロジェクトが進行中です。
日本の「すばる望遠鏡」や、欧州の「ユークリッド宇宙望遠鏡」、NASAの「ローマン宇宙望遠鏡」など、最先端の観測がダークエネルギーの手がかりを探しています。
◇まとめ
ダークエネルギーとは、宇宙の加速膨張を引き起こしている見えないエネルギーであり、宇宙の約7割を占めると推定されるものです。正体はまだ不明ですが、これを解明することは宇宙の未来を理解することに直結しています。
宇宙の最大の謎のひとつであるダークエネルギーは、同時に私たちの存在条件を決める背景でもあります。夜空の向こうに広がる加速する宇宙を想像すると、見えない力がどれほど深く私たちの世界を形づくっているかを実感できるでしょう。
