何を言っている?(#せりふ三題噺)
「なにか、良いことでもあったのですか?」
今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいご機嫌な顧客に、こちらも笑顔で尋ねてみる。
「わかる?」
「ええ。お顔が輝いていらっしゃいますから」
そう言うと、顧客の顔がさらに笑み崩れた。
「実はね、理想のお家、とうとうイメージできたのよ」
「そうなんですね! それは良かったです!」
「でも、かなり難しい注文になりそうなの。だから、無理そうなら断っていただいてけっこうよ」
そのように言われては、こちらも黙っていられない。
「我が社は、信用と実績のある建築会社ですよ。どーんと、お任せください!」
「あら頼もしい。それじゃ、早速」
こほん、と顧客は咳払いを一つした。
「私、昨日レストランに行って、イタリア料理を食べてきたの」
「……はぁ」
唐突な話題の転換に困惑する。
「そこで食べたペンネが、それはもうおいしくって! あの感動は忘れられない。お皿の返却口で、何時間も店の人にその素晴らしさを語り、コックに感謝を捧げたわ」
「……左様でございましたか」
それは、ただの迷惑客なのでは?
「それでね、私、おいしいペンネでできた家に住みたいと思ったのよ。でも、そんなの無理な話よねぇ」
この客は、何を言っている?
「もともと私の理想は、大草原にこじんまりと建つ家だったの。だから、大草原にこじんまりと建つペンネの家に住みたいのよ。でも夫に相談したら、大草原に建つ家って、あんまりないって言うじゃない? やっぱり難しいかしら」
もう一度言おう。何を言っている?
「お客様、何を仰っているんですか?」
まずい。思わず声に出してしまった。冷や汗を拭っていると、落胆と諦めのため息が聞こえた。
「そうよね、やっぱり無理よねぇ」
「大草原に家を建てるなら、こじんまりしたものではなくて、もっと夢のある大きなものにしなければ!」
「……え?」
目をしばたたく顧客に向かって、拳を振って力説する。
「素材に関しても、様々な検討の余地があります。せっかくならペンネも、ショート……いや、グランデサイズで考えてみましょう」
「……何を言っているの?」
唖然とする顧客に、満面の笑みで胸を叩いてみせる。
「グランデサイズのペンネで建てる、大草原の大きな家! 信用と実績のある我が社に、ぜひお任せください!」
ペンネはショートパスタの一種であって、グランデサイズのペンネは果たしてペンネなのかどうか……。
ともあれ、素敵な家が建ちそうです。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
