見出し画像

【ショートショート】ソフトクリーム大会

「行くのー! 行きたいのー!」

 小さな少女が、手足をばたつかせて両親に駄々をこねている。

「行っても、サキちゃんにはおもしろくないかもよ」

 母親に宥められた少女は、それでも頑として主張を曲げない。

「やだ! 行く! ソフトクリーム大会、行くの!」

(何それ、そんなおもしろ美味しそうな大会、行きたいに決まってるよね)

 公園や体育館、グラウンドなどが集まる複合施設の一角で、ベンチに腰掛けてその様子を眺めつつ、今まさにソフトクリームを口へ運ぼうとしていた美優は、そう思った。

 しかし、次に続いた父親の言葉に、思わず吹き出してしまう。

「サキ、今からあそこでやるのは、ソフトクリーム大会じゃなくて、ソフトボール大会だよ」

(なるほど! ソフトボールが何かわからなくて、自分が知ってるソフトクリームに変換されちゃったのか)

 などと考えていると、手元にどろりとソフトクリームがとけ出す感触がした。

(いけない! とける、とける)

 慌ててソフトクリームにかじりつく。

(カップタイプの方が食べやすいけど、コーンタイプで食べるのが醍醐味なんだよね)

 美優は、一人旅の気楽さでマイペースにご当地ソフトクリームを堪能する。

 美優は、ソフトクリームが大好きだ。

 そして、特産品を使い創意工夫に富んだ、ご当地ソフトクリームも大好きだった。見知らぬ土地に足を伸ばしては、ご当地ソフトクリームをじっくり(しかし、とけるので素早く)味わう。観光はそのついでのようなものだ。

 付き合ってくれるような人もおらず、必然、自由気ままに一人旅をすることが多い。

 さて、次はどこのソフトクリームを食べようか、と美優はスマホで検索を始める。そうして目に飛び込んできた文字に、思わず息を呑んだ。

***

 一週間後。
 美優は、真剣な面持ちである会場の前に佇んでいた。

 じりじりと照りつける夏の太陽。
 会場前の看板には、カラフルなイラストと共に大きく書かれた「ソフトクリーム大会」の文字。

 ソフトクリーム好きが高じてソフトクリームの検定まで受け、合格している美優にとって、この「ソフトクリーム大会」は実に魅力的なものだった。
 
 というのも、優勝者には一年分の全国ご当地ソフトクリーム券が贈られるのだ。どこに行っても、いくらでもソフトクリームが食べ放題。

 絶対に優勝する、と心に決め、美優は意気揚々とやってきたのだった。

 会場に入ると、意外にも(美優にとっては意外でも何でもなかったが)出場者は多くいた。夏休みの思い出作りに来た親子連れから、美優のような本気で優勝を狙う者まで、その目的も様々だ。

(真剣勝負をしに来たのね、この人も。目で分かる)

 美優は、隣りの選手をこっそり盗み見る。四十代と思われる、糸のように細い目の、穏やかそうな見た目の男性だ。しかし、その細い目に闘志がみなぎっているのを、美優は敏感に感じ取った。

(絶対に負けない!)

「皆さま、本日はようこそ、ソフトクリーム大会にお越しくださいました!」

 司会の声で、大会の幕が上がる。

「まずは、ソフトクリームに関する問題を解いていただきます!」

 検定勉強に励んだ美優にとってはお茶の子さいさい、朝飯前だ。

(解ける、解ける!)

 余裕の笑みを浮かべながら問題を解き終え、回収される答案を見送った美優は、また隣りの選手を盗み見て表情を引き締めた。

 かの選手は、穏やかな笑みを絶やすことなく、強者の貫禄を漂わせている。

「次は、ソフトクリームを巻く技術を競います! 上手に巻けるかな?」

 親子連れは、「あー! 失敗した!」「ピサの斜塔みたいになったんだけど!」「見て〜うまくできたよ~」とほのぼの楽しそうに挑戦している。

 一方、美優たち真剣勝負組は、ただ黙々とソフトクリームをいかに芸術的に巻けるかということに集中していた。

(なかなか、いいんじゃない?)

 自信作を前にして満足げにうなずいた美優だったが、隣りの選手の力作を見て、その自信が急速に失われていくのを感じる。

(す、すごい⋯⋯)

 完璧なとぐろを巻いたソフトクリームが、そこには在った。美優が隣りの選手を再度見遣ると、彼もこちらをちらっと見て意識したのがわかった。

(くっ、やるわね。でも、優勝はいただくんだから!)

 隣りの選手がふっ、と笑ったのを感じて、美優の闘争心は一層燃え上がる。

「最後は、ソフトクリーム大食い競争! 制限時間内にソフトクリームをいくつ食べられるかを競います。無理せず、濃厚な味わいを楽しんでください!」

(さあ、最終決戦よ!)

 隣りに視線を向けると、好敵手の糸目がカッと見開かれるのが見えた。

(開眼した! どうやら、あちらも本気なようね)

「よーい、スタート!」

 美優は勢いよくソフトクリームを口に運んだ。王道の濃厚なバニラ味は、口の中を幸せで満たす。

(おいしい!)

 美優は、一心不乱に食べ続けた。
 隣りの様子をうかがうと、初めて彼の顔に焦りが浮かんでいるのが見えた。

(この勝負、いただき!)

 しかしそこで、美優の余裕の表情も崩れた。

 カンカンカン!

「そこまで! 終了でーす!」

***

 会場を後にする美優の手には、全国ご当地ソフトクリーム食べ放題の券が握られていた。しかし、その表情に笑みはない。

(お腹が⋯⋯)

 人々を笑顔にする幸福にも、適量というものはあったのだった。


ソフトクリーム食べ放題、夢があっていいですよね。ご当地ソフトも大好きです。
セルフでやるとき、うまく巻けた試しがありません。

ちなみに、ソフトボール大会とソフトクリーム大会を間違えたのは、幼い頃の私です。

ソフトクリームの検定や大会は見当たりませんでしたが、アイスクリームの大会や検定はあるようです。ちょっとやってみたい。

こちらのお題で書かせていただきました。
ありがとうございます!

画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。

#風まかせ文芸部
#ソフトクリーム

この記事が参加している募集