【ショートショート】ねぎの行方(#せりふ三題噺)
「牛丼ください! ねぎ多めで!」
「はいよ!」
お気に入りの店で、お気に入りの席に座り、お気に入りの牛丼を注文する。店主も慣れたもので、手早く牛丼を準備する。
「ねぎ盛り牛丼お待ちィ!」
目の前に置かれた牛丼に、ごくりと唾を飲み込む。香ばしい匂い、ほかほかとした湯気、肉の茶色と紅生姜の紅、ねぎの緑のコントラスト。
目を輝かせて箸を手に取り、いただきますと手を合わせたそのとき、緑色がぱっと消え失せた。
「あ、待って、待って!」
牛丼に乗っていたねぎ達が、一斉にわらわらと走り出したのだ。あっという間にねぎ達の姿は見えなくなり、茶色と紅だけが虚しく残った。
「ねぎと一緒に食べるのが醍醐味なのに」
しゅんと落ち込んでいると、店主が顔をのぞかせた。
「あー、今日はツイてないね。ねぎ、あれが最後だったんだよ。でも、ねぎ達が行くところは大体見当がつくからさ。どんぶり持って、行ってみるかい? お代はまた今度でいいよ」
店主の言葉に一縷の希望を見出し、どんぶりを持っていそいそと席を立つ。店主がくれた行き先リストの一番上には、店主の兄弟が営む店が書いてあった。
「ごめんください! ねぎはいますか?」
「ねぎ? あ、ちょうどそこに」
指し示された先には、ジュウジュウと美味しそうな音を立てる焼き鳥があった。
「ねぎま⋯⋯おいしそうだけど」
これじゃないんだよな、と肩を落とす。力になれなくてすまないね、と店を送り出され、次に向かった先は。
「ごめんください! ねぎはいますか?」
「ねぎ? そこにたくさんいるけど」
指し示された先には、頭を下げて出迎えてくれている人が五、六人いた。
「ようこそお参りです」
「あ⋯⋯神社だもんね。禰宜さん、たくさんいるよね」
でも違うんだよな、と嘆息する。次に向かったのは農家の庭。ここならねぎがいるに違いない、と期待に胸を膨らませる。
「ごめんください! ねぎはいますか?」
「ねぎ? これかい? そこの木の根切りを手伝ってくれたら、あげるよ」
農家の人が手にぶら下げていたものを持ち上げる。
「玉ねぎ⋯⋯ねぎには違いないんだけど」
玉ねぎも美味しくて好きだけど、今欲しいのはそれじゃないんだよな、と涙目になる。
そうしてねぎを探し続けた夕暮れ時、なぜかその身は船上にあった。デッキで潮風を頬に受けながら、金髪の外国人に必死に説明する。
「アイ・ウォント・ネギ! あれ、ねぎって英語で何だっけ?」
「アー、ハイハイ、ネギね」
伝わった、と喜びに満ち溢れるも、続く言葉に顔を曇らせる。
「ネギは、五万円ダヨ」
「た、高すぎる。せいぜい五百円じゃないの?」
「三万円」
「いや、無理だよ⋯⋯」
「シカタナイ、一万円ダ、モッテケドロボー!」
そんな高級なねぎが欲しいわけじゃないんだよな、と天を仰ぐ。
「これじゃ、ねぎじゃなくて値切り⋯⋯」
敗北感に打ちひしがれながら、とぼとぼと元の店に戻る。どんぶりを抱えて鼻をすすりながら席に戻ると、「ごめん、ごめん」と店主の申し訳なさそうな声が聞こえた。
「あんたが出ていってすぐ、ねぎ達が戻って来たんだよ。どうやら、俺のねぎ達に対する扱いが良くないというので、ストライキを起こしたってのが事の顛末らしくて。協議の末、何とか良いようにまとまったからさ」
ねぎ盛り牛丼を食べていってよと言われ、滂沱の涙を流す。ぼやける視界いっぱいに、わらわらと駆け寄ってくるねぎ達が見えた。
ねぎ無しでそのまま牛丼を食べたらよろしいがな、というツッコミに、それは違うんだよなあ、と返す主人公でした。ねぎ、畑やどこかの店にありそうですけどね。主人公はたぶん、逃げたねぎ達しか受け付けなかったのでしょう。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
#せりふ三題噺
#牛丼金髪デッキ
