リングピロー(#せりふ三題噺)
眼前の光景を見た幸人は、内心ため息をついた。
「お式でご使用いただくリングピロー、指輪を乗せるものですけれども、例えばこのようなデザインがございます」
クッションタイプ、かごタイプ、ボックスタイプ⋯⋯。色も形も様々なリングピローが所狭しと並べられている。
「もちろん、これ以外のデザインであってもご提案は可能です。なかには手作りされる方もいらっしゃいますよ」
(こんなことまで決めなきゃいけないのかよ。どれでも同じだろ)
面倒臭いと感じた幸人はしかし、隣りに座る香奈の顔を見るなり、「どれでもいい」という言葉を賢明にも飲み込んだ。
「わ!ふっかふか!色もかわいい!」
クッションタイプの一つを手に取った香奈は、目を輝かせてその手触りを楽しんでいる。
「さすが、お目が高い!」
唐突に、式場担当者が前のめりになった。その勢いに幸人は椅子ごと後ずさる。
「実はこちら、レンタルではなく買い取りにしていただきますと、お式の後も長く使っていただけるものなんです。赤ちゃんの初めての枕、ファーストピローとしてお使いになる方もおられますし、インテリアとして飾る方もおられます。あとは、急な雨への対応などにも便利です」
担当者がにこやかに、滑舌よくまくし立てる。しかし、最後の部分に違和感を感じた幸人は思わず聞き返した。
「急な雨?」
「はい。例えば夕立の際、こちらを頭の上にかざしていただきますと、雨が勝手に避けてくれます」
持ち運びしやすいサイズ感ですし、夏の間は重宝しますよ、と担当者は微笑む。
「え、すごい!そんな機能があるんだ!」
香奈はしげしげとリングピローを眺めて感嘆しているが、ちょっと待ってほしい。
「雨が?避けてくれるの?こいつのお陰で?」
「はい。ほかにも、安眠効果、動物引き寄せ効果、時空逆行機能などがございます」
とんでもない話に、幸人は目を白黒させる。それはもう、リングピローではないのでは。
「すごいすごい!動物引き寄せ効果ってことは、猫ちゃんとか寄ってきてくれるんですか?」
「まさにその通り!動物にモテること間違いなしです!」
香奈は担当者と熱い握手を交わしているが、食いつくところはそこで良かったのだろうか。
「ただ一点、注意していただきたいことがありまして」
担当者が声音をぐっと下げて囁く。あまりの緊張感に、幸人もごくりと喉を鳴らした。
「こちらのリングピローは大変美意識が高く、また刺激を常に求めております。そのためお手入れの際には、必ず酸性泉に浸さなければならないのです」
そうしないとへそを曲げてしまうので、と嘆く担当者に、幸人は胡乱な目を向ける。
「手入れのためだけに温泉に入れ、と?」
今までの話すべて、眉唾物なのではないかと考える幸人の手を、香奈がそっと握った。
「私、これ欲しい」
「これ、買い取ります」
幸人は香奈の上目遣いに弱い。気づけば口が勝手に言葉を紡いでいた。
「お買い上げありがとうございます!」
担当者は白い歯を見せてにこりと笑った。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
