【ショートショート】虫よけ(#せりふ三題噺)
「今日もまた、嘘つき呼ばわりされた⋯⋯。でも、僕だけは信じてる。宇宙人の存在をね。いつか宇宙船をこの目で見るのが、僕の夢なんだ」
拳を振って力説すると、彼女はふふ、と笑って「素敵な夢ね。必ず叶うわ」と言った。荒唐無稽だと誰も信じてくれないが、彼女だけは違う。本当に、得難い人と出会えたものだ。
「このスープ、おいしいわよ」
にこりと微笑む彼女が差し出す器を受け取る。とろりとした黄金色の液体が、たぷんと揺れた。
こくりと、一口飲んでみる。体の内側で熱がじわりと広がった。
「見て、光ってる」
大きな黒い目がじぃっと自分を見つめている。焦げ付きそうなその視線を辿ってみると、自分の体が黄金色の光に包まれていた。
「なに、これ」
呆然と自分の体を見下ろしていると、彼女が顔をゆっくりと近づけ、耳元で小さく囁いた。
「虫よけ。だってあなた、魅力的過ぎるんだもの。他の人に取られては困るわ」
「そ、そんな⋯⋯。今まで魅力的だなんて誰にも言われたことないよ。それに、こんなに光っていたら、外を歩けないじゃないか」
慌てて言い募ると、「安心して」と彼女は微笑んだ。
「この光をまとっていれば、あなたは私のお気に入りだっていう証明になるの。誰もあなたに手出しなんかできないわ」
長い髪を尖った耳の後ろに流し、彼女は肩をすくめた。
「それに、外なんて歩かなくてもいいのよ。私が全部、お世話してあげる。あなたって、私たちみたいな者にとっては本当に魅力的なのよ」
今まで攫われなかったのが奇跡だわ、と彼女は言った。言いしれぬ不安が押し寄せてきて、ガタンと椅子を蹴倒し立ち上がる。
「か、帰る!」
出口へ向かおうとすると、彼女の腕が絡みついてきた。
「今さら、どこに帰るというの? もう飛んでいるのに」
彼女の言葉に、はっとして窓の外を見る。夢にまで見た宇宙船は、自分を乗せて猛スピードで空を駆け抜けていた。
王道のロマンスを考えていたはずなのに、なぜかホラーみたいになりました。宇宙まで飛ばすつもりはなかったんだけどなぁ。
でもたぶん、彼女に愛されて、彼も幸せになれるはず。なってくれ。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
