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真犯人は校長先生第5章 チェックメイトの裏返り 1

「校長先生。あなたのその『自己犠牲の段取り』、美しくありません」

高坂蓮のその言葉は、騒然としていた会議室の空気を一瞬で凍りつかせた。

教頭も、教育委員会の課長も、大河原PTA会長も、突然現れた一年の男子生徒と、彼が放った奇妙な言葉の意味が理解できず、ただ呆然と彼を見つめている。

私は立ち尽くしたまま、ポーカーフェイスの裏側で冷や汗がさらに深く流れるのを感じていた。
(美しくない……だと? 完璧に計算された私の破滅プロットの、どこに不備があるというんだ)

高坂君はゆっくりと歩を進め、私のデスクの上にあるノートPCの前に立った。

彼は相変わらず私の目を見ようとはせず、液晶画面に映る複雑な波形データに視線を落としている。

「校長先生は、ご自分がすべての罪を被って『異常な犯罪者』としてメディアに糾弾されることで、学校の闇と困窮生徒への支援の必要性が世間にクローズアップされると計算しました。自分が悪者になれば、他のみんなが救われる。それがあなたの最後の段取りです。――ですが、その計算には、最も重要な『人間心理のノイズ』が考慮されていません」

高坂君がキーボードを叩くと、会議室のモニターの映像が切り替わった。

そこに映し出されたのは、今回の事件の被害者である五人の生徒たちの、普段の学校生活のデータ、そして彼らが提出したアンケートや作文の文面だった。

「あなたが逮捕され、この事件が『困窮家庭を巡る自作自演の怪事件』として日本中に報道された時、世間の目は本当に彼らへの純粋な支援へと向くでしょうか? いいえ。メディアやネットの匿名大衆は、彼ら五人の名前や住所、家庭環境を血眼になって特定しようとするでしょう。『あの異常な校長が身を挺して救おうとした子供たちは誰だ』と。それは支援ではなく、容赦のない二次加害(セカンドレイプ)を生むだけです」

「……ッ!」

私は言葉を失った。胸の奥を鋭い楔で打ち抜かれたような衝撃が走る。

世間の注目を集めるという劇薬。それが、声を上げられない子供たちにどれほどの毒性を発揮するか。私は「行政を動かす」という大局ばかりに目を奪われ、最も守るべき子供たちの「個人の尊厳」に対する想像力を欠いていた。

「さらに」高坂君は淡々と続けた。「あなたが仕込んだ神保先生の『退職願』。あれは確かにあなたのPCから印刷されていましたが、僕がそのプリンターのスプールデータ(印刷履歴)を解析したところ、もう一つのデータが見つかりました」

高坂君が画面を操作する。モニターに表示されたのは、神保誠一の本当の銀行口座の取引履歴、そして、彼が消費者金融に返済した際の「領収書」のスキャンデータだった。

「神保先生は、確かに多額の借金を抱えていました。しかし、彼は先週、別の正当な手段でその借金の大部分を返済する目処を立てていました。親族からの生前贈与です。その手続きの相談を、神保先生はあなたに宛てたメールで行っていました。――校長先生、あなたは神保先生が借金で困窮しているという事実を知りながら、彼がすでに破滅から脱出しようとしていた事実に『気づかない振り』をして、彼を容疑者に仕立て上げた。これは論理的なエラーではなく、単なるあなたのエゴです」

「黒木校長……君は、そこまでして……!」
教育委員会の課長が、椅子を激しく引いて立ち上がった。
その目は、軽蔑と怒りに満ちていた。

私の完璧だったはずの城が、少年の淡々とした言葉によって、足元からサラサラと砂のように崩れていく。

私はデスクに両手を突き、がっくりと頭を垂れた。ポーカーフェイスを維持するだけの気力さえ、今の私には残されていなかった。

「……私の、負けだ、高坂君」

私は掠れた声で呟いた。

「私は、独善的な正義感に溺れていた。子供たちを救うためと言いながら、自分の作った完璧なプロットに酔っていただけだったのかもしれない……。警察を呼んでくれ。私は、自分が犯した罪のすべてを認める」

大河原PTA会長が冷酷な声で言った。

「当然です。いくら動機がどうであれ、泥棒を働き、部下に冤罪をなすりつけ、子供たちを危険に晒そうとした。あなたに教育者を名乗る資格は、一ミリもありません」

会議室の中に、完全な絶望が満ちていた。私の社会的生命は、今、この瞬間を以て完全に絶たれた。

しかし。

高坂君は、ノートPCの画面をパタンと閉じると、本日初めて、私の顔をまっすぐに見つめた。

「だから言ったんです。あなたの段取りは『美しくない』と。――だから、僕があなたの段取りを『修正』しておきました」

「……修正、だと?」
私は目を見開き、少年の瞳の奥にある真意を読み取ろうとした。

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