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真犯人は校長先生第4章 赤と黒の緊急会議 3

会議室の全員の視線が、一斉に液晶モニターへと釘付けになった。

「な、なんだこれは……?」

教育委員会の課長が声を震わせる。

画面に映っていたのは、鑑識官たちが職員室の中庭の窓を調査しているリアルタイムの光景だった。

カメラの角度は、普段ならあり得ないほど窓枠のクレセント錠にクローズアップされている。

高坂君が校内ネットワークをハッキングし、防犯カメラのズーム機能を遠隔操作しているのだ。

画面の中の鑑識官が、ピンセットで窓枠から「何か」を慎重に採取した。

それは、私が昨夜、神保君のボールペンを使って上書きした、あのプラスチックの削りカス――のはずだった。

しかし、モニターの隅に、突如としてテキストデータがポップアップした。

高坂君が独自に作成した解析プログラムの画面だ。

『現場遺留物:ポリスチレン(黒色ボールペン由来)』
『下層堆積物:ポリ塩化ビニル(透明プラスチックカード由来)』

文字が読めない保護者たちのために、スピーカーから高坂君の合成音声が、会議室全体に冷徹に響き渡った。

『鑑識が採取した神保誠一のボールペンカスの「下」から、別のプラスチック片が検出されました。これは昨夜、何者かが証拠を偽装するために、意図的に上書きした痕跡です。真の侵入者は、神保先生ではありません』

「な、何だって……!?」

大河原PTA会長が立ち上がった。
会議室は一瞬にして蜂の巣をつついたような騒ぎになる。

私はポーカーフェイスを維持したまま、デスクの下で拳を固く握りしめた。

背中を冷や汗がどっと伝わっていく。

(上書きの厚みが足りなかったか……! 鑑識が削り取る前に、高坂君が仕掛けたセンサーか何かが、下層のデータを先に読み取っていたのか!?)

天才少年の牙は、私の想像を遥かに超える深さで私の喉元に突き刺さっていた。

『さらに』と、合成音声は淡々と続けた。

『神保先生のPCの遠隔操作ログ、および偽造された退職願の印刷データが、すべて「校長室の端末」のMacアドレスから発信されていることを確認しました。――システムを完全に掌握し、この事件のすべての段取りを組んだ真犯人は、別にとどまります』

静寂が、会議室を支配した。

すべての視線が、ゆっくりと、しかし確実に、長テーブルの端に座る私へと集まっていく。

教育委員会の課長の目が、驚愕と怒りで釣り上がった。

「黒木校長……。これは、どういうことだ……!? 説明しなさい!」

私は、全員の突き刺さるような視線を浴びながら、ゆっくりと目を閉じた。

心拍数は八十五まで跳ね上がっている。流石にこの包囲網は、生半可な話術では切り抜けられない。

だが、私は「黒木」だ。この学校のトップであり、この舞台の演出家だ。

私はゆっくりと目を開け、フッと口元に不敵な笑みを浮かべた。

ポーカーフェイスから、完全な「支配者の顔」へとシフトする。

「……素晴らしい『ノイズ』だ、高坂君」

私が誰もいない天井に向けてそう呟いた瞬間、会議室の空気は凍りついた。

「課長、大河原会長。お騒がせして申し訳ない。――そう、その映像が示す通り、神保君をハメたのは、この私だ。給食費を盗んだのも、この私だ」

「な……ッ!?」
教頭が椅子から転げ落ちそうになりながら絶叫した。

「なぜそんなことを……! あなたは子供たちのために身銭を切るんじゃなかったのか!?」 大河原会長が怒りに震えながら私を指差す。

「すべては、地獄の沙汰も金次第、いや、『事件次第』だからですよ」
私は立ち上がり、スーツの皺を優雅に伸ばした。

「こうして私が『最悪の偽善者であり、真犯人』として捕まる。そうなれば、この事件のニュース価値は、ただの事務員の横領とは比較にならないほど跳ね上がる。テレビ、新聞、ネット、すべてが『困窮家庭を救うという名目で自作自演の犯罪に手を染めた異常な校長』として私を糾弾するでしょう」

私は両手を広げ、狂気すら感じさせる笑みを浮かべた。

「私が社会の敵になればなるほど、この学校の『五人の困窮生徒』への注目度は、日本中で最高潮に達する。寄付金が集まり、行政は批判を恐れて即座にスクールソーシャルワーカーの予算を創出する。――私が一人の犯罪者として破滅することで、あの子たちの未来は永久に保障されるんだよ。神保君の無実も、これで完全に証明された。誰も、傷つかない」

私の圧倒的な狂気と論理の前に、会議室の誰もが言葉を失い、ただ圧倒されていた。

その時、会議室のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、警察官ではない。

一年生、高坂蓮だった。彼は相変わらず私を見ることはなく、壁の液晶モニターを見つめながら、ぽつりと言った。

「校長先生。あなたのその『自己犠牲の段取り』、美しくありません」

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