『読書家だったはずの俺が、noteを書く中毒者になるまでの話』
夜は、本を読む時間だった。
一日が終わって、あとはもう誰にも邪魔されない時間。
コーヒーでも淹れて、積読の山から一冊選んで、ページをめくる。

「ああ、今日もいい夜だな」と思える、あの感じ。
多少、読めていない本が増えてもいい。
むしろそれすらも、「いつか読む」という希望のストックみたいで嫌いじゃなかった。
──少なくとも、あの頃の自分はそういう人間だった。
それが、いつからだろう。
「ちょっと1記事くらい書いてみるか」と始めたnote。
最初は軽い気持ちだった。
続くとも思ってなかったし、何かが変わるとも思っていなかった。
なのに。
気づけば、日中にふとした瞬間に考えている。
「これ、記事のネタになるな」

電車の中でも、仕事の合間でも、
どうでもいい会話の断片ですら、頭の中で見出しになっていく。
いやいや、ちょっと待て、と。
お前はそんな人間だったか?と。
そして、決定的な変化は夜に訪れる。
「今日は読書するぞ」
そう決めて、本を開く。
数ページ読む。いい感じだ。面白い。集中できている。
……はずなのに。
気づくと、こうなっている。
「このテーマ、自分なりに書いたらどうなるだろう」
「構成はこうして、導入はああして…」
「タイトルはちょっと皮肉っぽい方がいいか?」
──いや、読め。
今は読む時間だろう。
そう自分にツッコミを入れながらも、

脳内ではすでに“執筆モード”が起動している。
読書しているはずなのに、
頭の中では編集会議が始まっている。
そして数分後。
本は閉じられ、
気づけばキーボードを叩いている。
……いや、さっきまでの「今日は読むぞ」はどこいった?
ここまで来ると、もう疑問が浮かぶ。
これって、趣味なのか。
それとも、ただの習慣なのか。
あるいは、軽い中毒なのか。
読書が好きだったはずの人間が、
読書を“素材集め”として見始めている。
「この表現いいな」じゃなくて、
「これ、どう料理しようかな」と考えている。
純粋に楽しんでいたはずの時間が、
どこかで“アウトプット前提”にすり替わっている。
……ちょっと怖くないか?
いや、怖いというか、
正確には「自分でちょっと引いてる」。
でも、やめたいかと言われると、そうでもない。
むしろ楽しい。
文章が形になっていく感じとか、
自分の中にあった曖昧なものが言語化される感覚とか、
あれはあれで、かなり気持ちがいい。
たぶんこれは、

「読む楽しさ」とは別の種類の快楽なんだと思う。
インプットの静かな満足と、
アウトプットのちょっとした興奮。
どっちが上とかじゃなくて、
ただ、いまは後者に寄っているだけ。
……で、ここからが少し気になっていることなんだけど。
これ、同じ人いません?
「いや、自分も気づいたらそうなってる」っていう人。
何かにハマった瞬間、
それまで大事にしていた趣味が、静かに押し出されていくあの感じ。
しかもこれ、ちょっと厄介で。
やめようと思えばやめられるはずなのに、
別にやめる理由もないし、
むしろ“今のほうが楽しい”から、そのまま進んでしまう。
で、気づいた頃には、元の趣味との距離が
なんとなく開いている。
ゲームにハマったら動画を観なくなるとか、
筋トレ始めたら夜のダラダラ時間が消えるとか、
創作を始めたら“消費する側”に戻れなくなるとか。

──あれ、ちょっと戻れなくなってない?
って一瞬だけ思うんだけど、
その一瞬も、だいたい次のネタに上書きされる。
たぶんこれ、珍しい話じゃない。
特に「書く」とか「作る」みたいな創作系って、
一度スイッチが入ると、世界の見え方が変わる。
ただ楽しんでいたものが、
急に“材料”とか“ネタ”とかに見えてくる。
それって効率はいいのかもしれないけど、
純粋に楽しんでいた頃には、
もう完全には戻れない感じも、少しだけある。
……いや、それ自体は悪いことじゃないし、
別に後悔してるわけじゃないんだけど。
「あれ、自分ちょっと変わったな」と気づく瞬間は、
わりと誰にでもある気がする。
ただ、「あのときの自分、けっこう無防備に楽しんでたな」って、
ほんの少しだけ思い出す瞬間がある。
たぶん、こういうことなんだと思う。
何かにハマると、
それまで好きだったものの“立ち位置”が変わる。
消えたわけじゃないのに、
優先順位が静かに入れ替わる。
読書が嫌いになったわけじゃない。
ただ、関わり方が変わっただけだ。
読むために読む時間から、
書くために読む時間へ。
それを「劣化」と見るか「進化」と見るかは、
正直よくわからない。

──けど、
あえてカッコ良く表現するなら──
「深化」…かな?
ただひとつ言えるのは、

夜の過ごし方は変わったけど、
相変わらず、夜はちゃんと好きだということ。
本を開く夜も、
キーボードを叩く夜も、
どっちもそれなりに悪くない。
……とはいえ。

積読の山が、前よりちょっとだけ
寂しそうに見える気がするのは、
────気のせいじゃないと思う。

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