見出し画像

タランチュラ流星

 蜘蛛を飼っている。

……と言うのは嘘でもあり、真実とも言える。詳細を説明すると、私の家には一匹の蜘蛛が潜伏している。

 私は蜘蛛が嫌いだ。蜘蛛というか、虫全般が苦手である。彼らは無言で、ある日突然目の前に現れる。それも、しれっと。先日も、玄関の扉の隙間に小さなバッタが潜伏していた。ドアを開けた瞬間、勢いよくバッタは飛び跳ねる。私はその場で

「ぎゃあああ!!」

と叫ぶ。きっと、近所の人は何か事件が起きたと思ったに違いない。バッタもバッタで、そんな私を見て慌てふためき、飛び跳ねながらその場を後にした。アイツは一体、何がしたかったのか。

 虫の行動は意味不明だ。

 私を驚かせたいから、目の前に現れるのか。
 それとも、何も考えていないだけなのか。
 思わせぶりにも程がある。

 最近、目の前に突如としてあらわれる蜘蛛も同じだ。できることなら、アイツの姿も目にしたくない。

 でも、アイツは目の前に何の前触れもなく現れる。そう、あの時のバッタと同じように——。

 娘や夫がいる時、アイツは決してその姿を見せない。照れているのか。やましい気持ちがあるのか。それとも。

(アイツの狙いは、一体何なのだ?)

 驚かせたいのか。存在を知らしめて私を威嚇したいのか。この家の頭金を払っているのは私。オマエはただ、勝手に家の中に忍び込んでいるだけだ。

 なぜ、私より堂々とした振る舞いを見せるのか。そして私はどうしてビクついていなければならないのだ。わずか1センチばかりのオマエのために。

 アイツは、いつも私が仕事で夢中になってる時に限って、ここぞとばかりにカサカサカサーーッと駆け足で壁を一気に走り抜ける。その走り方にはまるで忍者の如く迷いがない。もっと申し訳なさそうにしてほしい。ここは人の家だぞ。

 先日も、アイツが目の前に現れた。1センチくらいの黒い塊が、無言でカサカサッと動くのが不気味で仕方なくて、胃の底がモゾモゾする。

 できれば、指でサッと掴んで部屋から放り投げたい。けれど、それと同時に私のエゴでアイツの命を粗末に扱ってもいいのかと悩む。その前に、蜘蛛を指で摘む行為が怖すぎる。

 それにアイツにも、妻や娘がいるかもしれないのだ。私に夫や娘がいるのと同じように。

 せめて、ペットとして向き合うべきか。

 なら、最高にかっこいい名前をつけたい。そうだ、流星。私の好きな横浜流星にちなんで、タランチュラ流星と名付けることにしよう。ちょっと、強面のプロレスラーみたいなネーミングだけど。

(流星、出ておいで)

 そう心の中でつぶやいた途端、「私はなにをやっているのか」と我に返る。そもそも、なんだか横浜流星さん……そしてファンの流星群の皆様に申し訳ない気がしてきた。

 本物の流星さんは、今国宝とべらぼうで忙しいというのに。少し流星さん流星さんってnoteに書けば、あわよくばご本人様がインターネットで検索して自分のページにたどり着いて

「へぇ。あんた、蜘蛛に俺の名前を付けちまったってか。

ったく、蜘蛛ごときに俺の名をつけるなんざ、お主さんも粋な趣味だねぇ。へへっ。

まぁ、そいつが八本脚でド派手に暴れ回るなら、俺の名もちょいと響くってもんだ。

……んで、その蜘蛛、どんな奴なんだい?俺みてえに気っ風のいい野郎かい?」

って感心するんじゃないかって。(蔦重テイスト重め)

 腕を組み、細く整った眉をひゅっと顰めたりしてさ。蔦重みたいに。って……そんなこと、ある訳ないだろぉぉぉ。私の、べらぼうめっ。

【おしまい】


※日記のネタで書けそうなものがなく、家に生息している蜘蛛について真面目に書きました。

こんな風に、ネタがない時は家にある「何か」にフォーカスして話を広げて書くのも、ひとつの方法かもしれません。

 みなさんも、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?

 スクショ日記、私も面白そうなので参加します。



#誰が真似すんねん

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集