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蜜柑の呼吸に、私の炭治郎が全集中【唇よ、強くなれ】

 痛みに負けるな。

 そんなCMのキャッチコピーを、かつてよく耳にしていた。いつからだろう。年齢を重ねるにつれ、体の痛みには敏感になったはずなのに、どこかで「まあいいか」と適当に済ませる癖がついてしまったのは。

 けれども、40代の「健康」における適当は、もはや死活問題だ。先日は歯磨きを「まあいいか」でサボり続けた結果、虫歯が進行してしまい、歯の神経を抜くことになった。

「入れ歯になるかもしれないよ」

 夫に脅され、朝ドラ『ばけばけ』の怪談シーンよりもゾッとする。まあ、あのドラマは怪談以上に辛辣な人間模様や時代の移り変わり、階級の違いからくる「価値観のズレ」が怖さの本質でもあるのだけれど。

NHK公式チャンネルより。ばけばけ、面白いです。

 健康に適当な私でも、冬の乾燥シーズンは見逃せない。この時期私の肌と唇は、ひび割れ注意報を発令する。唇は厚みを増すのに、なぜか強くなるのではなく、むしろ脆くなる。何度リップクリームを塗っても、一向に潤う気配がない。のれんに筆押しだ。

 強く。強く。もっと丈夫であれ。

 そう祈りながらもなお、私はリップクリームを同じ箇所(唇)に塗り続ける。でも無残なまでに、リップクリームの量だけが減っていく。唇の殻を無理に引き剥がそうとすれば、今度は血が滲み始める。

——痛い。

 防御する思いで、唇にクリームの蓋をしても駄目。嗚呼、一体私はどうしたらいいのか。私はただ、唇を守りたい。祈りはそれだけ。そう思いを込めて、クリームを私は唇に塗っただけなのに。

 一体、なぜ。どうしたら私の唇は強くなれるのか。

 年齢とともに、唇の乾燥が酷くなった。毎年対策を兼ねて、ありとあらゆるリップクリームを試すものの、昔のような効果を感じられず、費用だけがかさむばかり。そして私は、大澤誉志幸のように途方に暮れる。まるで鍛錬を重ねたはずなのに、結局は自分の弱さと向き合う羽目になる竃戸炭治郎のようだ。

 唇の乾燥に加えて、口内炎が舌と唇の裏にできた。もれなく祈る項目に、口内炎が追加された。

 舌に口内炎が出来たのは初めてである。

「本当に口内炎なのだろうか。違う病気だったらどうしよう」と弱気になり、インターネットで「口内炎 舌」とググると恐ろしい話が目に飛び込んでくる。

 ネガティブな情報を目にするのは怖い。常に最悪の状況を想像してしまうので、毎日鏡で「舌にある口内炎」を確認しながらビクビクしている。こんな時、煉獄さんなら

「ははは!大丈夫だ!口内炎など、待てば治る!」

と威勢よく切り返すのだろうか。そんな強さを得られるのは、きっと治ってからだ。まだ舌にも、唇の裏にも口内炎が残っている。インターネットによると、2週間残った状態だと危険とか何とかで。すでに4日目を迎えているので、口内環境のことが心配で仕方ない。

 食事のたびに、ずきずきと口内炎の痛みが走る。口内炎が唇の裏にできるのも厄介だが、舌にできると、これがまた地味にしんどい。

 そんな中、夫が「みかんを食べよう」と言って、無邪気にオレンジ色の果実を差し出してきた。

蜜柑

なぜ今、口内炎という弱点を抱える私に、酸味の塊を勧めてくるのか。優しさなのか。それとも、彼なりの『無邪気な罠』なのか。

 そういえば最近、Xには詐欺系の「後ろ姿の外国人女性」からロマンスめいたメッセージが頻繁に届くらしい。軽くちょっかいをかけたら、返信が止まらなくなってブロックしたそうだ。

夫婦の会話

 すると今度は、さまざまなタイプの「後ろ姿系外国人女性」からフォローが続いたそうで。まったく、詐欺に心を開いたり、迂闊にも油断してはいけない。……と、話がそれた。詐欺の話はこの辺で。蜜柑の話に戻そう。

 蜜柑の皮をむこうとすると、爪と指の間のささくれが沁みる。そうだった、冬は指先も乾燥することを忘れていた。

 敵は唇や口内炎だけではない。指先、口内、肌……冬の乾燥は、私にとってまるで四方八方から襲いかかる刺客のようだ。これはもう、全集中で迎え撃たねばならない。

 それでも、みかんの誘惑には勝てず、口内炎の反対側でそっと頬張る。食欲の秋。もうすぐ冬も到来するし、メルティーキッスの季節も近い。これから数ヶ月、私は食べ物の誘惑には勝てないだろう。

(甘い蜜柑に潜む酸の刃よ、鎮まれ……)

「あ、いけるかも」と思ったのも束の間。みかんの果汁が口内全体に広がり、痛みが一気に襲ってきた。

「あいたたた!あいったぁぁ!」

と叫びながら、私は悟る。敵を見くびってはいけない。油断は大敵だ。たとえ、普段は優しい甘みをくれる蜜柑であっても——冬の戦いにおいては、容赦ない刺客となるのだ。

文字数:(1289文字)



⭐︎この記事を書いた人


プロフィール:エンタメ系雑食ライター。リアルサウンド映画部・arweb・ぴあ・らしさなどでエンタメコラム、占い、商品レビュー記事などを執筆

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X  @mikumayutan



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