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すべての「優しい人」と呼ばれる君へ捧ぐ。人の目より、自分を大切にしていいんだよ

優しい人

 昔から、「優しいね」と言われた。優しいから、何をやっても許される。あの人は怒らない。だから、何をやっても大丈夫だと。

 どこまでやれば、あの人は怒るのだろうか。そうやって、試し行動をされたことは一度二度ではない。

 みくさんが好きだといっている人、横から取ったら面白いんじゃないのかしら。約束してドタキャンしたら、あの人は怒るだろうか。

 へぇ、怒らないんだ。面白くない。多分、私は人からそう思われ続けてきたと思う。

 私が彼らの誘いに応じないのには、理由がある。面倒な揉め事が嫌いなこと。あとは、ただの負けず嫌いだからだ。

 彼らの挑発に応じれば、相手の思う壺。だから、絶対に怒ってはいけない。たとえ、どんなに自分が辛く苦しくても……。

 それでも、怒りたくなることは腐るほどある。

 ある時は、友人から「みくさん、今。私の話を聞いて、私のこと羨ましいと思ったでしょう。ちょっとイライラした表情してる。それ、凄くいいよ」と言われた。

 どんなに我慢をしても、人の悔しさ。嫉妬は表情から零れていく。それを察して、優越感に浸ったあの女。私の感情は、誰かの優位性を保つためにある訳ではない。

 自分の感情と尊厳を保つべく、私は平常心を装う。こめかみをピクピクと震わせながら。悔しいけれど、そんな人ほど腐れ縁で長く続いたりするものだ。

 そんなことが、これまで一体何度あったことだろうか。優しいと言われるとは嬉しいようで、実は辛い。誰かの尊厳を満たすために、利用されることなんて星の数だ。

 でも、私は絶対に屈しない。私が負けを認めることで、他の優しい誰かが踏みにじられる可能性があるからだ。

 そもそも誰かに優しいと言われるために、私は生きている訳ではない。幸せになるために今、こうして息を吐いているのだ。


夏の恋とイジメとそれから


 蝉がけたたましく轟く頃、私は恋を求めて友人から誘われたバーベキューに出かけた。

 そこで私は、がっちりとした筋肉質の彼と出会う。少し甲高い声は決して好みではなかったが、顔立ちは某俳優に似ていて結構タイプかも。

 彼と話が盛り上がった訳ではないが、なんとなく自分が気に入られているというのは察した。妙に「セレブっぽい雰囲気だね」と、変な褒め方をされた記憶がある。

 あの時、フリフリのブラウスを着て、麦わら帽子を被っていたからだろうか。私は、お嬢さまでもなんでもないけれども。それっぽい恰好をして、スカした顔をして座っていたように思う。

 その後、彼と連絡先を交換し、デートに誘われた。ルックスも悪くないし私もいいなと思ったので、二つ返事でOKした。

 初デートは、大衆居酒屋のようなところだった。彼は、Tシャツにチノパン姿という出で立ち。気取っていない様子も良かった。

 デートに誘われたのに、彼は自分からあまり話そうとはしない。緊張している素振りも見受けられない。一体、なぜ私は誘われたのだろうか。

 結局、ずっと私が喋っていた。

 好きな芸能人は誰とか。休みの日は何をしているのだとか。なんで、私が彼をエスコートしているのだろうか。喉から出かけた言葉を、ぐっと飲み込む。

 彼から「年齢は?」と聞かれ、35歳と答えた。彼の表情が曇ったのを感じた。そこから、彼のテンションが少し変わった気がする。彼は2歳年下だったから、思っていたより年上だと思ったのかもしれない。

 その後、もう1回私たちはデートをする。そのデートは、確か私から誘った記憶がある。ところが彼のテンションはすでに低く、気乗りしない様子だ。

 そのデートの帰り、私はお礼のメールを送ろうとした。LINEがブロックされていた。

 数日後、私はバーベキューに参加した女子たちが集うLINEグループに「実は〇〇君とデートしていて、好きになっていたかも。LINEもブロックされちゃって……」と送付した。

 誰も返事をくれない。慰めてくれない。何か私、変なことを言ったのだろうか。

 それから数日後、そのメンバーの1人から「実は、あのLINEグループの中の〇〇ちゃんと、彼が交際している」ということを聞かされた。

 失恋の、本当の理由はコレか……。

 その後、女子の集いに挨拶をしても無視をされたこと。私は今でも忘れていない。他の子たちは、決まりの悪そうな顔をしては、私の顔を見ない振りをしていた。

 「あの女とは喋るな」と、通達を受けていたのだろう。

 それからしばらくしたのち、彼女から一通の連絡が届く。それは、あと5分で演舞というタイミングだった。

 というか、彼女。私の演舞、応援に来てたよね。すごい怖い顔して見てたの、今でも覚えてるよ。

 メールの内容は、「彼と私は交際してるから、取ったらダメだよ」とのこと。今更ジロー。されどジロー。

 もっと早くに、言えばよくね??

 そもそも私、LINEブロックされてるんですけど。って、前に私から説明したよね。その下り、また説明しなきゃいけない訳?きついんだけど。

 それに。流石に彼女が顔見知りなら、取らないって。どんだけ信用されてないのよ、私。

 私はその後、悔しさと苛立ちが募って大号泣。チームメンバーも、どうしていいかわからない感じだった。迷惑をかけてしまった。集団活動、向いてないと思う。

私、空気読めないんだ。ごめんね。あれから一年も経たないうちに、私はよさこい辞めたよ。彼らは一生懸命だから、もう迷惑かけられないし。

 正直者が損をする。私だけが正直に伝えて、なぜか集団から無視される。辛いけれど、これが女社会なのだと悟った。

 根に持つ人だと思われるかもしれないけれど。やられた方が、ずっと忘れられないのだ。

 この話は、これまでどこにもずっと書かなかった。理由は、その友人と私が薄いながらも続いているから。年賀状のやり取りも、つい最近まで続けていた。

 別に彼女のことも、彼のことも嫌いじゃない。ただ、どっかでモヤモヤしていたように思う。どこかで成仏させないと。

 本当は、私。許したいんだよ。あなたたちのこと。

 だから、あの子ともう一度ちゃんと面と向かって話すために。ここで、あの時の怒りを成仏させて欲しい。


LINEブロックした男から土産を貰う

 それから数年後、私はその女の子からあるモノを渡されることとなる。

「みくさん、うちの夫がこれを渡して欲しいって」

 渡されたのは、横文字がずらりと並んだチョコレートだった。なんとLINEブロックで別れを告げた男から、嫁を経由してチョコレートのお土産を渡されたのである。

 しばらくすると「彼がぁ〜、海外出張にいっててぇ〜。帰ってきたら、ミクさんにコレを渡してって言われたんだけどぉ〜」と、彼女からの自慢が始まった。

 ぶん投げてやろうと思った。

 きっと彼は、LINEブロックしたことで罪悪感を覚えていたんだと思う。だから、チョコを渡してチャラにしたかったのでは。

 えっ。勝手にブロックして、無かったことにするんじゃねぇよ?これは、お前が始めた物語だろ?

 君を許すタイミングというか。許すかどうかは、こちらで決めたい。

そもそも、あなたにその権限はないでしょ?
いつまでも、私があんたのこと好きだと思った?2回しか会ってないんだけど?

 やっぱり、チョコレートぶん投げてやろうかしら。

 でも今は、女子会だ。みんな仲良しで、和気あいあいとした雰囲気である。

 そんな中で、私がチョコレートをぶん投げたら、また無視をされるだけ。あの女は、頭がおかしいと。また噂されるのだ。

 「ありがとう。家に帰って食べるね」

 食べる訳、ないだろうが。家に戻るなり、すぐさま夫に渡す。「うまいうまい」と、夫は喜んで食べていた。私はチョコレートの箱をすぐにぐしゃっと潰して、ゴミ箱へ放り投げた。

 えっ。あの時のことを、まだ怒っているかって?

 思い出せば、そりゃイライラすることもあるけれど。それ以上に、今はお互いに、もっと大事にしなければならないことがある。

 言ってしまえば、このnoteを書くまでそんな話すら忘れていた。封印しておけば良かっただろうか。

 普段から「優しい」と言われる私のような人は、怒りを露わにしない。我慢する。理由は単純で、揉め事が嫌いだからだ。

 でも、我慢する人はずっと忘れない。吐きだして、すっきりしていないから。だから、より怖いと思う。

 だからこそ、「こいつは怒らないから」といって、人を舐めてはいけないのだ。

【完】


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