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小説『Freedom Lessons』──20世紀アメリカの白人と黒人の学校併合で何が起きたのか

トランプ政権が誕生することになり、米国では人種間の分断がさらに進みつつある。そんななか、私の所属するブッククラブで取り上げられたのが『Freedom Lessons』(Eileen Harrison Sanchez著)。1960年代後半に、ルイジアナ州で白人の学校と黒人の学校が併合されたときの激動を描いた小説だ。ルイジアナ州で教職についていた著者の経験をもとに書かれた、事実に基づくフィクションと言える。
 
歴史を振り返れば、1954年のブラウン対教育委員会の判決で人種分離は憲法違反であるとされ、それ以降、白人の学校と黒人の学校の併合が進んだ。1964年には人種隔離政策「ジム・クロウ法」が事実上廃止。動きが遅かった南部の州でも、学校を併合しなければ予算配分しないという政府の圧力を受けて、併合が進んでいく。だが、人種の混合を嫌う白人からの反発だけでなく、同等に扱われない黒人からの不満もあり、併合は平和裏には進まなかった。
 
著者は、米国北東部育ちの白人だが、1969年、ルイジアナ州の黒人用の小学校に派遣され、黒人コミュニティに溶け込もうと奮闘していた。その最中に学校が突然併合されることになり、黒人の学校は閉校。黒人学校の生徒や先生は、白人の学校に通うことになる。ただ、併合とは名ばかりで、黒人の生徒は窓のないトレーラーに押し込められ、食堂の席は人種別に分かれている。黒人の職員は要職につけない。学内は分断されていた。
 
物語は、白人教師(著者)、黒人教師、黒人生徒、黒人保護者の4人の視点から語られる。白人教師である著者は、黒人学校では「仲間」として見られずに孤立。併合後は、「黒人学校から来た職員」として白人の職員から無視される。四面楚歌のなか、黒人生徒の教育に力を注ぎ、生徒たちの信頼を得ていく。高等教育を受けた黒人教師は、軋轢を避けつつ最善を尽くすなか、あまりに愚直でうぶな著者のやり方に辟易する。だが、次第に著者を同士として認めるようになる。黒人生徒やその保護者は、命がけの非暴力ストライキを通じて、学校上層部の不平等なやり方に抗議し、黒人の権利向上を目指していく。
 
今、米国の公立学校には、さまざまな人種の生徒が当たり前のように通っている。息子は日本人だが、日本人だからといって差別されることはない。白人であれ、ユダヤ人であれ、黒人であれ、アジア人であれ、同じように扱われ、みな友達だ。米国北東部という場所柄、白人の職員が多いが、それでも極めてインクルーシブな環境である。このような環境は、小説に描かれている人々の地道な努力の結果なのであろう。
 
ブッククラブのミーティングには著者が来られ、直接話を伺う機会を得た。この小説は、学校併合時の事実を伝えたい思いと、差別に立ち向かえなかった当時の自分を懺悔する気持ちから生まれたものと言う。小説を書くことで自身のトラウマが癒やされたと語る。読者から見れば、著者は人種を超えた絆を築いた人物であり、その健闘は賞賛すべきものに他ならない。しかし、著者の目は、自分が成し遂げたことよりも、成し遂げられなかったことに向けられている。
 
また、白人が黒人の物語を書くというのは常にリスクが伴うと言う。白人が黒人問題を書くと「白人に何がわかるんだ」と批判されるのが常だからだ。そのプレッシャーのなかで小説を出版するには勇気が必要だったと言う。出版前には複数の黒人の友人に内容をつぶさに確認してもらったそうだ。まだ根強く残る黒人に対する差別、そしてその差別をいつも腫れ物に触るように扱わなければいけない白人の葛藤がある。
 
著者のサインをいただいた。そこには、"Be the change you want to see"と書かれていた。40年以上にわたる教職を通して、著者はまさにチェンジをもたらした人であろう。握手した際の著者の透明な優しい眼差しが印象的だった。今、分断が進むアメリカの未来に、かすかな希望を見た。


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