『夜を運ぶ白馬』

『夜を運ぶ白馬』
第1章:青い家と、ガラスの夜
世界のまんなかよりも、すこしだけ外外・はずはずれ・のところに、ぽつんと建つ「青い家」がありました。そこは、昼と夜のちょうど境界線。
その家には、世界でたった一頭の「白馬」と、夜の管理人である、もの静かなおじいさんが住んでいました。
青い家の地下室には、まあるくて大きな、透明なガラスの球がたくさん並んでいます。それこそが、この世界の「夜」でした。傷ひとつなく、チリひとつついていない、完璧な「ガラスの夜」。
毎日、夕方になると、おじいさんはその日に配るガラスの夜を優しく磨き上げ、白馬の背中にそっと乗せます。
白馬は、そのガラスの夜を割らないように、静かに、静かに世界を歩くのです。白馬が歩いた後ろから、ひんやりとした、美しい瑠璃色の夜が世界を包み込んでいくのでした。
世界の人々は、その完璧な夜の中で、いつも決まった、静かで正しい夢を見ていました。

スケッチ
イメージ画
第2章:おっとっと!
ある日の夕暮れ。
白馬はいつものように、背中にガラスの夜を乗せて青い家を出発しました。
ところがその日は、いつもより少しだけ、夕焼けの風が心地よかったのです。
白馬は、ほんのすこしだけ、嬉しくなってしまいました。いつもは絶対にしないのに、トントン、と小さなステップを踏んでしまったのです。
――チリン。
かすかですが、凍りつくような鋭い音が響きました。白馬が慌てて背中を振り返ると、完璧だったはずのガラスの球に、一筋の、細い「ひび」が入っていました。
「どうしよう、夜を傷つけてしまった!
おじいさんに叱られてしまうかもしれない。それに、世界のみんなが怒ったらどうしよう……!」
白馬の心臓は、ドキドキと高鳴りました。
けれど、夜を配る時間は一刻一刻と迫っています。白馬は意を決して、ひび割れたガラスの球を背負ったまま、いつものように夜の街へと駆け出しました。
白馬が走ると、背中のガラスの球のひび割れた隙間から、それはもう、言葉では言い表せないほど美しい光が溢れました。
ただの虹色ではありません。それはまるで、天の絵の具皿をひっくり返したような、誰も見たこともない幻彩の光でした。
ひび割れた球の奥底から、じっと虹をはらんでいた太古の光が一気に目覚めたのです。
最初は夜空をカーテンのように優しく揺らすオーロラでしたが、次の瞬間、光のなかから真珠層の艶やかなまたたきが溢れ出しました。
そこへ時々、ひな菊やリンドウのような色とりどりの美しい花の色や、ダイヤモンドやサファイアといった宝石の光がチカチカと降るような、硬くて眩しいきらめきが混ざり合います。
それらの光の粒は、まるで生きているガラスの葡萄のように、またたく間に夜空へ広がっていったのです。
白馬は心臓をドキドキさせながら、その不思議な光の夜を背負い、夢中で運びました。
いつもなら、白馬が通り過ぎた後は「しん」とした深い夜が降りるはずです。
けれど今夜は違いました。
白馬の足跡を追いかけるようにして、街の空に、真珠色や黄金色、淡い孔雀緑の光がゆらゆらと、波のように広がっていったのです。
第3章:見たこともない夢
夜の街の人々は、窓の外を見てあっと息を呑みました。
「今夜の夜は、なんだかいつもと違うぞ」
けれど、誰も怒りだしたりはしませんでした。それどころか、窓を開けて、その宝石のように輝く虹色の空をうれしそうに見上げているのです。
やがて人々が眠りにつくと、さらに素晴らしい奇跡が起こりました。
ひび割れた夜が見せるのは、ちがう色の光だけではなく、ちがう夢でもあったのです。
ある仕立て屋の男の子は、「雲の糸で織った、虹色に光る上着」を着て空を飛ぶ夢を見ました。
ある小さな女の子は、「おしゃべりをするクッキーの兵隊」と一緒に、お月様まで夜のピクニックに出かける夢を見ました。
あるおばあさんは、「むかし遠い街へ旅立った、懐かしい友だち」と、賑やかなお祭りのなかで手をつないで笑い合う夢を見ました。
人々は、見たこともない、あたたかくて自由な夢の心地よさに、寝返りを打ちながら幸せそうなため息をつくのでした。
白馬は、街のあちこちの窓からこぼれる「ふふふ」という寝息を聴きながら、じわりと胸が温かくなるのを感じていました。
最終章:世界でいちばん優しい「ひび」
朝の光が東の空に広がる頃、白馬は丘の上の「青い家」へと帰ってきました。
背中には、すっかり中身の光を配り終えて、からっぽになったひび割れのガラス球が乗っています。
「おじいさん、ごめんなさい。夜を傷つけてしまいました……」
白馬がうなだれていると、地下室から出てきたおじいさんは、そのガラス球をそっと撫でて静かに微笑みました。
「怒るわけがないだろう。昨日の夜、街のみんながどんなに幸せそうな寝息を立てていたか、ここまで聞こえてきたよ。完璧なものだけが美しいわけじゃないんだよ、お前が教えてくれたんだ」
次の日から、青い家には世界中の街の人々から、たくさんの手紙が届くようになりました。
『昨日の夜、お花畑のような虹色の空の下で、とっても素敵な夢を見ました!』
『今夜はどんな宝石の夜が来るのかな? 楽しみに待っています』
それからのおじいさんの新しい仕事は、夕方になると、ピカピカに磨き上げたガラスの夜に、コツン、とわざと優しく小さなひびを入れることになりました。
星の形、波の形、花びらの形……。
おじいさんが入れるひびの形によって、その夜、溢れ出すオーロラの色も、きらめく宝石や花の色も、みんなが見る夢も、少しずつ変わるのです。
白馬はもう、ビクビクしながら歩くのをやめました。
今夜も背中に、世界にひとつだけの優しいひび割れを乗せて。白馬は嬉しそうにステップを踏みながら、青い家から光る夜の街へと、軽やかに駆けていくのでした。
〜おしまい〜
こちらの物語は陶レリーフからイメージを膨らませて、AIと一緒に生み出しました。
出来上がった物語から、また陶芸か絵の作品を創りたくなってきています。
この物語を元に挿絵や作品を創ろうと思います。
西美紀
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