🌙北欧の太陽を求めて
親友がフィンランドに嫁ぐ。遠いはずの北欧が急に身内になった。幼い頃に聞いた「太陽のない国」の記憶がよみがえり、日比谷での別れに寂しさと祝福が交差する。彼女は太陽を選んだのだ。そう思い抱擁する。
上海時代の同僚が、ついに結婚することになった。正確に言えば結婚した。
お相手はフィンランド人🇫🇮。何年も前から、フィンランド人の仲良しがいるとは知っていて、相性が良いことも知っていたが、二人は十数年の友情を乗り越えて、ようやく二人で一つの人生を送ることを決断した。
6月にはフィンランドに引っ越すことを決めた友人に、今回東京で会ってきた。次いつ会えるかもわからないから、会うなら今しかない。
私たちは育ってきた環境に近しいところがあるせいか、家族のコアな話もしやすかったし、お互い海外経験も似通っているし、趣味も近しい。そんな彼女がリアルに果てしなく遠くに嫁いでしまうのは寂しくもあるが、友人が人生の伴侶を見つけられたことは純粋に嬉しい。それに、親友がフィンランドにいるって、なんかそれだけで"私も"かっこいいではないか(笑)私が結婚するわけではないのに。
私とはなんの縁のゆかりもない土地なのに、親友がいると言うだけで、なんだか親戚が住んでいる場所ぐらい身近な場所になった。もはや、フィンランド人は私の身内である。
さて、話は40年前に遡る。私が年長さんだった時の話だ。
月に一度、幼稚園で外国の話を聞く機会があった。その日は、たまたま北欧のどこかの国から帰国したばかりの新任のおばちゃん先生だった。
私はその先生の北欧の話をとてもよく覚えている。子供にとっては衝撃的な話だったのだ。
北欧の国々は、冬になるととてもとても寒くて、雪がたくさんたくさん積もります。氷もたくさんで、そして、太陽が全然上らないから、ずっとずっとずっと夜で真っ暗なのよ。
朝八時でもまだ夜で、三時ごろになると、もう夜なの。だからね、みんな太陽を求めるのよ。私たちが、太陽の光を浴びられるということは、大きな大きな神様の恵みなの。
北欧の人は太陽の光を浴びる時間がとても短いからね、50歳ぐらいで、歯が抜けちゃう人がいるの。髪の毛も真っ白でボサボサで、病気になったりしちゃうのよ。
だから、みんな大人になっても外に出てたくさん遊んだりするし、病気にならないように気をつけてるのよ。
そう言ってその先生は、まるで魔女のように歯の抜けて髪の毛がボサボサの人の写真を何枚か見せてくれた。
幼い私にとっては衝撃だった。太陽に当たるということは、生きていくのにそれほどに大切なことなのか!と。それならば、外でいっぱい遊ばないといけない!そう思った。
その先生は,北欧の食べ物や風習もたくさん教えてくれたはずだが、私はその太陽に当たらなければならない、という言葉しか覚えていない。もしかしたら少しバイアスがかかって記憶しているかも知れないが、私はその時太陽の恵みの貴重さをギラギラと受け取った。
……だから、みんな、お外でいっぱいいっぱい遊ぶんですよ!!……
先生は最後にそう言っていた。
昨日、その話を友人に話したところ、友人はうんうんと大きくうなずいてくれた。夏でも冬でも一日中部屋の中で篭って仕事をしようとすると、彼の家族に戸外へ引っ張り出されて、とにかく自然を浴びなさいと言われるのだとか。仕事なんかより戸外だ!自然だ!と。
うん、優しい家族だ。
特にフィンランドは幸せの国と言われ、国民のストレス度がとても低いとされるが、友人曰く、フィンランド人は、とにかく健康意識、ストレスを溜めないで生きる意識がものすごく高いそうだ。テレビは、サプリのCMがやたら多い。体内で生成されないビタミンをいかに吸収するかという意識が高い。それに、太陽ライトなるものを皆が持っていて、漆黒の冬の時期はテーブルの上に太陽ライトを置いて、明るい光を浴びる。そうすることで体内でビタミンなどを作らせ、また体内時計をリセットし、鬱病を回避するのだという。
キシリトールガムが重宝されるのも、そういう背景があるのかも知れない。日照時間が少ない土地では、体内でのカルシウム生成に大きく影響する。骨や歯を守る意識は死活意識に近いほど強いのかもしれない。
北欧は、サマーコテージ所有率が高い。サマーコテージは家族の共同財産である。湖畔のサマーコテージを先祖代々大切に使い、そこで何もせず過ごすことが、幸せの原点なのだという。何代にもわたって継承されるコテージは、単なる別荘ではなく、大自然に人間の命を浸らせる大事な場所、そこに来たら何もせずにただ自然に浸る。家族によっては、そこで出産分娩し、また人生の最後を迎える人生の節目の場所。プライベートな神社のようだ。
そこまでして、人生を自然に溶け合わせるのは、やはり、暗闇の季節が本当に長いからだろう。命の目覚めである、太陽を全身に感じ、自由に大自然にふれていなければ、心の冬も終わらず、人生をも害してしまう、と言う危機感の裏返しなのかも知れない。自然と一体になることで得られるものに最大限の感謝を感じつつ生きていくのが北欧のようだ。
ちなみに、友人は実は道産娘だ。だから、雪国にも慣れている。フィンランドに住むこともそんなにハードルが高くないのだろうと思っていた。
しかし彼女は言った。
『あのね、北欧の冬の暗さは、暗いなんてもんじゃなくて漆黒よ。闇なの。雪のレベルも、桁違いなんだから。だからね、北欧から見ればね、北海道ライフなんて赤ちゃんよ!赤ちゃん。いや、まだ産まれてもいないわ!』
道産娘の親友は、こうして赤ちゃんを卒業して、北欧の女として強く生きて行くのだなと、しみじみと感じた。
帰り、地下鉄に向かった。
地下鉄がサマーコテージに向かう船のようだった。その先に、彼女の太陽が待っているのだ。日比谷の改札前で、私は彼女を名残惜しく熱く抱擁し、がんばれと呟いた。
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