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🌙重たいペラいち枚

昔大変お世話になった編集長に、台湾の話を書いてほしいとリクエストされましたので、書いてみました。

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わたしは名古屋出身なのだ。
日本で四番目に大きい都市とはいえ、名古屋は中部圏であり、トヨタ圏であり、ホンダ圏でもあり、日本の経済と製造業を支える屋台骨だと思っている。おそらくほとんどの名古屋市民、愛知県民はそのように自負している。

しかし、それは日本国内だけであって、一歩国外へ出れば、名古屋という地名は影を潜める。

台湾に住んでいた時の話だ。
台湾の人に、「日本のどこ出身ですか?」
と問われ、
「名古屋です」
と言っても、なんとなく微妙な反応をされる。
しかし、「近くに豊田がある」というと台湾の人々の顔がほんの少し煌めく。
「おぉ、トヨタって、あの車のトヨタ?」
「そうそう。トヨタは会社が大きすぎて、町の名前がトヨタになっているんだ」
「そうだったんだ!…で、東京には近いの?大阪には近いの?」
ってな感じだ。

そして、
「いやぁ、僕の親戚のおばちゃん大阪に住んでるんだよね」とか、
「トーキョーに旅行で一度行ったことがあるわ!」
「新幹線で富士山が見たい」と、
ほとんどの場合大都市圏や富士山の話にすり替わってしまう。
(台湾人は、親戚が大阪や千葉や埼玉に住んでいる確率が異様に高いんですよ。)

そのように、よっぽど日本に旅行ばかり行っている人でなければ、日本の地理、ましてや名古屋の地理なんて分からなくて当然なのだ。

しかし、いざ「来週名古屋に帰るの」とポロっと漏らしたものなら、
さぁ大変。

「え!そうなの!じゃあさ、買ってきて欲しいものがある!」

大リクエスト大会のゴングが鳴る。
帰国の噂は会社の内部で即座に共有され、皆上司の目を盗んで、ギラギラとした目玉で、日本のブランドリサーチを始める。そして、親、親族、友人たちにも共有される。

そして、2日後には、これはなんの調査ですか?と言わんばかりの詳細なお土産リクエスト一覧表が手渡される。皆、名古屋の位置も知らないのに、日本のブランドやアニメに関しては、誰もが詳細を知っている。台湾の人は、日本人よりアニメや日本の芸能ニュースに詳しく、日本の最先端ファッションにも目が無い。
彼らの青春は、日本文化なのだ。今も昔も。



さて、人生で初めて(2006年ごろ)台湾の友達からこのお土産依頼リストを受け取った時、あまりの詳細さに目がくらんだ。

ユニクロの、何色の⚪︎サイズカシミヤセーターが3枚(母、私、叔母の分)
〇〇という美容グッズの旧バージョン(新バージョンはいらない) 2つ
〇〇というメーカーのボールペンスヌーピーが印刷されているもの  色違いで各2本ずつ(妹と分ける)
〇〇というブランドの乳液 3瓶(2006年限定版)
〇〇というブランドのリップ 2005年冬限定バージョン
タバコ〇〇ワンカートン(彼氏の親に)
〇〇という風邪薬5箱(台湾とは成分が違うので日本のが欲しい)
〇〇という目薬を5箱(~~という成分が入っているもの)
〇〇というビタミン剤 3瓶
〇〇というお菓子 1つでいいよ
キッコーマンの〇〇の醤油 1本
ワンピースのチャッピーのマスコットぬいぐるみ 1つ
ドラえもんのキーホルダー(なんでもいいよ)・・・・

笑顔でサラッと渡された、その薄っぺらい紙一枚が、手のひらにズドンと重くのしかかった。
突っ込みどころ満載だが、この紙一枚には、大変重い何かが詰まっていた。

風邪をひいたら、食事を買って届けてくれる友達。実家に帰ったら、地元の有名なお菓子をお土産に持ってきてくれる友達。なんでか知らないけど、自宅に招待して、ご馳走を食べさせてくれる友達。空港の送り迎えをしてくれる友人の友人。台風の日になると、すぐに電話で「カラオケ来いよ!」と誘ってくれる友達。引っ越しを手伝ってくれる友人の友人の知らん友人。みんなの軽やかな友情に乗っかって、わたしは楽しい台湾生活を送っていた。

この薄っぺらい紙を、安直に見くびってはいけない。日本人として誠意を見せねば。

わたしは帰国すると、名古屋でそれらの商品を探すため、すぐにイオンモールに行った。しかし、ほとんどが売られていない。指定の色がなかったり、バージョンアップされていたり、指定サイズが売り切れていたり…せっかくここまできたのに、イオンの商品バリエーションは、友人たちの日本への憧れを満たせていなかった。

その日帰宅すると、友人に「リクエストの商品が売っていない、別の色や別のサイズならある」とチャットで伝えた。すると、
「じゃ、色違いでいいから買ってきて、サイズ違いでもいいから。よろしく~」とか言われる。

そして、翌日また買い物に行かなければならなくなった。イオンに無いからと、都心部のハンズに行ったり、デパートに行ったり。

1週間の名古屋滞在、自由時間のほぼ全てが、友人のリクエスト探しに費やされてしまった。しかも、友人の指定品の半分も探し出すことができなかった。

そして、ついに明日は帰台の日。
後ろめたさを抱えながら、最大サイズのスーツケースを開いた。

外国に住む人あるあるだが、日本からの出発時、荷物がこれでもかという
ほど多くなる。そこに友達のリクエスト品をねじ込まなければならない。そのため、泣く泣く持ち物の取捨選択をし、パズルのように荷物をスーツケースに詰めていく。あっという間に1時間が過ぎていく。

傍に置かれたお気に入りの服を横目に、どっこいしょとスーツケースを閉める。蓋の上に乗り上がって、バチっと鍵を閉める。そして、パンパンのスーツケースにきつくベルトを巻き、体重計でしっかり重量を確認する。重量きっかりだった。やはりあの服は持って帰れない。

こうして、一抹の心残りを感じつつ台湾に戻った。
翌日同僚や友人たちに、お詫びと共に一部のリクエスト品をお渡しする。

「見つけられなかったものもあるんだけど、これどうぞ」
「わぁ!ありがとう😊😊めっちゃ嬉しい」

全てのリクエストを満たしたわけではなかったが、台湾の友人たちはあっけらかんとして、なんの文句も言わない。手に入ればラッキー的な、軽い気持ちでリクエストをしていたようだ。

日本でそんなことあるだろうか?
フランス人の友達がフランスに一時帰国するからと、ヴィトンの〇〇と〇〇を買ってきて、とリクエスト表とお金を渡す人なんてそうそういない。
だいたい日本人はこうだ。
「貴重な帰省の時間に、あれもこれもお願いしてら、友達をふりまわしてしまう。”お土産話し”がいい土産というじゃないか」
あぁ、日本は奥ゆかしい。
でも、ちょっとね…なんと言うか。

わたしは台湾で四年生活した上で、台湾の人は正直でストレートで、
人を頼ることにあまりマイナスのイメージを持っていない、と感じている。
だから、相手に振り回されるが、自分もたくさん助けてもらえるし、自分に正直でいられる。

45年生きたわたしは、今はこう思う。
振り回されるが、常に助けてもらえる人生』の方が、楽しく、生きやすい。

リクエスト探しは大変だったが、日ごろの感謝を込め、リクエストを渡せてよかったのだ。台湾のお互い様精神を見習おう。



……しかし、それ以降、わたしは誰にも告げずに、
こっそりと日本に帰省することにした。

え、私、意地悪だって?台湾人の助け合い精神は?

だって、日本人だもんでさ。(名古屋弁)

🌙


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