「満天星」──わたしが人生で一番好きな中国語
中国語と出会って、もう30年近く。
翻訳や校正や映画や脚本を見たりして、いろいろな中国語に触れてきましたが、数年前、人生でいちばん好きだと思える中国語に出会いました。
私のアイデンティティの源でもある聖書に親しむ方なら、きっと深くうなずいてくださる言葉だと思います。
その言葉とは──
デデデデデデデデデ…🥁
満天星。
そう、カスミソウの中国語です。
もともとカスミソウが好きでした。
小学生の頃、漫画『おしゃべりな時間割』の主人公が好きな花だったのがきっかけです。
かすかな白が寄り添いながらふわりと広がる姿に、子ども心にも特別な清らかさを感じていました。
そしてある日、中国語でカスミソウを知ったのです。
満天星(mǎntiānxīng)。
その瞬間、言葉の美しさが心にどっと流れ込んできました。
清らかさの中に、静かな祝福が満ちているような響き。
光に満ちた祈りのような言葉だと感じました。
満天星──満天の星。
真の闇に出会える場所では、星空はカスミソウのように細やかで、優しく、無数に瞬きます。
時に少し霞んで見える星々もまた、「かすみそう」そのものです。
そしてこの情景は、聖書の中でも特別な意味を持っています。
かつて、アブラハムという人物に神が語りました。
「あなたの子孫を、天の星のように増やす」
子どものいなかった老年75歳のアブラハムにとって、それは人生の切なる願いでもあり、しかしとっくの昔に諦めきって、心に蓋をしていた願望でした。
通常の感覚なら,老人に子供が生まれるなんてあり得ません。それでも、彼はその荒唐無稽な神の言葉を信じることに決めたのです。ここに彼の偉大さがあります。
英語でカスミソウはBaby’s breath、
「赤ちゃんの吐息」とも呼ばれるそうです。
生まれたばかりの小さな命。
生きようとする力が、静かに、確かに、あふれ出す。
そのはかなさと力強さは、まさに星々の祝福のようです。
アブラハムが見上げた星もまた、命の約束の象徴でした。
神の励ましを胸に、アブラハムは一歩新しい人生を踏み出しました。
しかし何年経っても妻のサラは妊娠しません。アブラハムは、星の約束を疑い、葛藤し、諦めたり、励まされたり、右往左往し続けます。その度に神はアブラハムを激励し続けます。
そうして、なんと、25年後もの時が過ぎ、アブラハムは100歳にもなろうとしていました。そんな、現実的に自分のの子供などあり得なくなったその時、サラは妊娠し、星の約束はついに実現したのです。
約束の子、イサクが誕生します。
妻のサラはすでに90歳になっていました。
途方もない忍耐と涙の先に、祝福があった物語です。
生きるということは、どの時代でも簡単ではないのですね。
アブラハムほどではなくても、私たちも、奇跡の前には、思いがけない忍耐が求められることがあります。
正直、私は何十年も荒唐無稽な希望を抱き続けられるほど強くありません。
自分と向き合うだけで息が苦しくなる日ばかり。
けれど──
もしどこかで、天がやさしくこう告げてくれたら。
「あなたの人生は、
この満天星のようになる」
天に散らばる星のような祝福の言葉が、そっと胸に灯ったなら。
その光だけで、人はまた歩き出せる気がします。
満天星。
私が受け取りたい、そしていつか誰かに渡したい祝福の言葉です。
