電池を買いに出て、黒猫に見られた
湯沸かし器の電池が切れて、朝から散歩に出ることになった。耳の中は『本好きの下剋上』、帰り道には黒猫。今日はそんな朝の話。



朝の空気はまだ湿っていなくて、歩くと気持ちがいい。1.8倍速の声はいつも通り速い。エルヴィーラが「貴女は貴女らしさを失うことなく」と言っている間に、こちらは信号を渡ったり、坂を上ったりしている。物語の中では大きな決断が進んでいるのに、聴いているこちらは電池のことしか考えていない。この温度差が、ながら聴きの面白いところだ。
帰り道、黒猫がいた。
段差になった石段に、ちょこんと座っている。逃げるでもなく、こちらを見るでもなく、ただそこにいた。近づいても動かない。むしろ少し目を細めて、こっちを値踏みするような顔をしていた。
物語の中では、ローゼマインが神殿や印刷業務を誰かに引き継ぐ準備をしている。移りゆく時に、誰が同行して誰が残るか、という話をしている。こっちは黒猫が動くかどうかだけを見ていた。石段から動く気配はなかった。
結局、猫は座ったままで、こちらが先に道を譲るかたちになった。

電池は買えた。物語も少し進んだ。特に何も解決していないのに、なんとなく満足して家に着いた。
また電池が切れたら、また出かけるだろう。そのときも、あの猫はきっとどこかの段差におる気がする。
*漫画は新宇佐美式六号で描きました。
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