息子の料理がオリジナルすぎるのよ
夕方4時になった。夕ごはんの支度をする時間だ。
ほうれん草を茹で、レタスをちぎり、きゅうりを切る。
本当はトマトも添えたかったけど、高くて買えたもんじゃなかった。
あとは豚肉をもう焼いてしまおう。
全ては子ども就寝後にやってくる、『推しのドラマ鑑賞』という名のうふふタイムのため。
そのために1秒でも早く寝てもらわなくてはいけない。
夕ごはんの支度が終わったら、YouTubeを見ながらレッツエクササイズだ。
最近体が鈍りすぎて始めてみたら結構おもしろくて、毎日お風呂前に一汗かいている。
さぁ、豚肉を焼こう。
「オリジナル料理作ってもいい?」
──はい?
私の記事を読んで下さっている方々はこのセリフは誰によるもので、この後にどんなことが繰り広げられるかお分かりのことでしょう。
まもなく夕方のくそ忙しいキッチンを占拠され、眉間に皺寄せ鬼瓦母さんが降臨しますよ。ええ。
小学3年生の小さな料理人は当然のように腕まくりをして手を丁寧に洗い、冷蔵庫を覗き込む。彼は私の『お手伝い』なんてしない。完全『オリジナル料理』だ。
こっちの献立?バランス?そんなものは関係ねぇ。
彼にとって料理は、『創作』そのものなのだ。
冷蔵庫を開けたまま全然決まらない。
チッ。私のうふふ時間が遠のいていくじゃないか。
ほら、眉間に皺が寄ってきた。
時計を見ると、もう4時半を過ぎていた。
このままじゃ、きゅんきゅん推しタイムが崩壊する──。
「ねぇ、まだ?お母さん豚肉焼きたいんだけど!」
推しへの愛を背負い、顔面鬼瓦と化した母の圧に、「卵にするぅー」と慌てて卵を取り出す料理人。しかも4つ。
料理人は卵を器用に割る──いちいち黄身と白身に分けて。
「ほらほらぁ〜みてぇ〜綺麗に分けられたよぉ〜」
料理人は楽しそうに、卵の殻からヒョコッと顔を出す黄身を鬼瓦に見せびらかした。
「そうだねかわいいねっ!ねぇっ!豚肉焼きたいんだけど!」
チッ。卵4つも黄身と白身に分けて、一体何を作るってのよ。
ああ、舌打ちが止まらねぇ。
イライラ。
どんどん時間が過ぎていく。
そうだ、今のうちにやるべきことを進めておこう。
私は寝床の準備やお風呂の準備を済ませ、エクササイズのためにiPadを三脚にセッティングした。
チラッとキッチンを覗きに行くと、仲良く身を寄せ合った4つの黄身たちをツンツンして遊んでいるではないか。
「ねぇっ!だからさ、お母さん豚肉焼きたいんだけど!」
豚肉焼きたい
豚肉焼きたい
豚肉焼きたい
──なんだこの既視感。
この時も、
そして──この時も、
私は、豚肉を焼いている。
やっと卵を焼き出す料理人。

……ねぇ、だからよ?
オリジナル料理のオリジナルがすぎるのよ。
どんな料理なのよ、これは。
どうやって食べるのよ。
「お母さん!レタス!レタスをお皿に敷いて!」
「えっ、あ、ハイ!!!」
突然の料理人からの指示に動揺する鬼瓦。
レタスを猛スピードで引きちぎり、皿に広げる。
フライ返して4つの黄身たちをフライパンから取り出そうとするがうまくいかず、4つのうち3つが潰れてしまった。
それをなんとかレタスの上にのせる。
「潰れちゃったぁ。......潰れてないの僕でいい?」
まったくちゃっかりしてるぜ。
っていうか、そろそろ豚肉を焼かせてくれ。
頼むから焼かせてくれ。
「次は白身だ!」
私の豚肉焼きたいという心の叫びは届かず、彼は4つ分の白身が集められたボールの中に牛乳を注いだ。
ドバッ。
完全に入れ過ぎだよね?それ。
もう、どうでもええわ、好きにして。
気がつけば、外はすっかり真っ暗に。
キッチンは彼のステージと化していた。
夕方4時からの私のプランは彼の一言で見事に崩れ去り、やっと豚肉を焼く順番が回ってきた頃には、時計の針は夕方6時を指していた。
棚に飾ってある写真の中の愛しき推しが、優しく私に手を振っている。
***
(おまけ)
ある日の朝。
彼は、「朝ごはん作りたい」と、朝の1番くそ忙しい時間にも腕まくりしながらキッチンに進出してきた。

だからさ……オリジナルがすぎるのよ。
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