競技より砂あそび。これが息子の運動会〜弟編〜
運動会の季節がやってきた。
我が家には小学1年生と小学3年生の男の子がいる。
長男は学校に行っていないので、次男の初めての運動会が私にとっても初めてになる。
「どうする?運動会行く?」
ルンルンの次男を見送り、ゲームをしている長男に聞く。
何かを考えているみたいだが、返事はない。
「まぁ、どっちでもいいよ。お母さんは応援しに行ってくるねぇ」
長男が学校に行かなくなって2年半が経つ。
それくらいにもなれば、長男が運動会に行こうが行くまいが、もうどっちでもいい。
小学1、2年の時は、なんとか行かせようとあんなにも頑張っていたのに。
私は長男と夫を残し、ひとりで学校に向かった。
空を見上げると青空が広がっていて、去年まではこの空がとても悲しく感じたものだった。
今は、「ああ!気持ちいい青空!」なんて深呼吸している自分がいる。
今年は次男が参加するので、その楽しみもあるのだろうけど、きっと......
長男が「学校に行かない」ことが、私たちの日常になったんだな。
***
学校に着いてすぐに次男の応援席のところに向かった。
その時に夫からLINEが届く。
『○くん(次男)の50M走から行くって』
お?長男来る気だ。
それはそれでやっぱり嬉しい。
次男の姿発見。
まわりは応援合戦をしているというのに、──砂いじりをしている。
ずっと、してる。
ずっと、砂で遊んでいる。
母が来ていることも気がつかずに。
──次男よ、母はここに来ているぞ。
砂で遊びながら、ひとりで笑っていたりする。
何がそんなに面白いのか。
運動会だぞ。
もうすぐ50M走るんだぞ。
なんとか次男の視界に入ろうと、手を振ったり体をくねくねしていると、ようやくその気配に気がついたのかこちらを見た。
ニマッと笑う次男。
次男の晴れ舞台。
いよいよ目玉の50M走が始まる。
私は、ゴール付近の最前列に滑り込み、スマホを構えた。
チャンスは一度しかない。逃してなるものか!──という親たちで溢れていた。
これこれぇ、こういうの、経験してみたかったのよぉ。
次男は、9レース目の4コースを走る。
目立つように、どギツイ黄色の靴下を履かせてある。
私は目を見開き確認する。
アナウンスがかかる。
──そういえば、長男来てないな。
ま、いっか。
いちについて......よぅい......パーーーーーンッ!
次男が全速力で走ってくる。
赤白帽が横向きになって一生懸命走っている姿がめちゃくちゃ可愛い。
次男は1番にゴールテープを切った。
その表情はとても嬉しそうで、ちょっと照れ笑いをしていた。
母、感動。
──まだ長男来ないな。
ま、いっか。
応援席に戻っても、相変わらず次男は砂いじりをしている。
他学年の頑張っている姿なんぞ、興味がないようだ。
小学3、4年によるソーラン節が始まった。
ソーラン、ソーラン
ソーラン、ソーラン
子供たちの元気な声が響き渡る。
──長男もここにいたら、どんな風に踊っていたんだろう。
一瞬寂しさが私の心を通り過ぎた。
『着いたよ』
次、1、2年生によるダンスのタイミングで長男と夫がやって来た。
夫としっかりと手を繋いだ長男の顔に笑顔はなく、強張った表情をしている。
私は長男の頭をなでた。
「よく来たね。ほら、あそこ○くん。さっきからずっと砂いじってんだよね」
次男の方を指差すと、「何やってんの」と、少し顔が緩んだ。
ダンスの番になったので、みんなで次男がよく見える場所に移動し、私はスマホを構えた。
曲は、GreeeeNの『あいうえおんがく🎵』。
家でもよく私の前で踊って見せてくれた。
手には真っ赤な手袋をつけ、曲に合わせ両手を大きく広げて踊る次男。
フォーメンションが変わるのだってちゃんと覚えて移動している。
──入学当初は毎日教室まで付き添って、よく泣いていたのにな。
すっかり小学校男子の顔になって堂々と踊る次男の姿に、じんわり感動した。
「もう帰りたくなってきた」
......長男、そろそろ限界かな。
『運動会』──集団行動、大勢の人から見られる。
繊細っ子にとっては試練でしかない。
「じゃあ、最後の○くんの玉入れ見てから帰ったら?」
小さく頷く長男と手をぎゅっと繋ぎ、人をかき分け移動する。
次男の玉入れが斬新すぎた。
玉入れのカゴの周りに玉が転がっていて、その周りをぐるっと子ども達が囲む。
──外向きに。
ん?カゴは中だぞ?なんで内向きではなく、外向きなんだ?
いきなり音楽がかかる。
曲は、『チェッチェッコリ』。
♪チェッチェッコリ チェッコリサ リサンサ マンガン サンサ マンガン ホンマン チェッチェ
お尻フリフリ踊る子どもたち。
めちゃくちゃ可愛い。
しかし、玉入れはしないのか?
♪チェッチェッコリ チェッコリサ リサンサ マンガン サンサ マンガン モンマン チェッチェ.....ピー!
いきなり笛が鳴り、くるっと内向きになった子供たちが一斉にカゴに向かって玉を投げ入れ始めた。
次男も投げる、投げる、投げまくる。
全然カゴを狙っていないじゃないか。
そしてまた曲がかかると、急いで最初の外向きの輪のところまで戻り、チェッチェッコリダンスを踊る。
ピー!
内向きになり、玉を投げる。
曲がかかる、ピー!、投げる。
なんか忙しいな笑。
斬新すぎて、慌てるみんなが可愛かった。
あとで聞くと、どうやら最近の小学校の玉入れってこれが流行っているらしい。
『ダンシング玉入れ』
保護者から、子どもの後ろ姿ばかりだからどうにかならないかという声が多く、生み出されたとのこと。
え......玉入れって、そういうもんじゃないの。
時代だなぁ。
長男は疲れた様子で、夫と帰って行った。
出番が終わった次男は、照りつける太陽が暑いのか、自分のリュックを枕に、赤白帽を顔にかぶせて寝転んでしまった。
すぐ先生に起こされていたけど、いやぁ、この太陽ギンギンの中ずっと見ているのも1年生には酷だよね。
それからもずっと次男は砂で遊んでいた。
***
帰宅すると、長男はゲームをしていた。
「来てくれてありがとね。あとでアイス買ってくるけど何がいい?」
「......ガリガリ君」
下校時刻になり、途中まで次男を迎えに行く。
遠くに次男が歩いてくるのが見える。
私がブンブン手を振ると、小さく手を振り返す。
近くまで来たので、大きく両手を広げるポーズをするとニコーッと笑いながら勢いよく私の両手の中に飛び込んできた。
「おつかれさまー!よく頑張ったね!アイスでも買って帰ろうか」
次男は嬉しそうに大きく頷いた。
息子が参加する小学校の運動会というものを初めて経験した。
楽しかった。
頑張っている姿を見られて嬉しかった。
長男の姿はそこにはないけど、でも、そんなのいいや、と思った。
自分の弟の晴れ舞台を見に来てくれた、それだけで十分。
玄関にポイっとされた次男のリュックは砂だらけで、サイドポケットの中には不自然なほどに砂がたくさん入っていた。
──次男め、砂を入れやがったな。
次回は、居場所の運動会〜兄編〜
綴ります!
