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初体験!トトノウの世界

──トトノッテみたい。


私は頭の隅でいつもそう思っていた。


サウナというのは、モワッとして息苦しくなるイメージが強くてどうも勇気が出ないでいた。
トトノウって、本当?
絶賛揺らいじゃってる世代の私は自律神経が乱れまくっていて、最近は本当に調子が出ない。
イライラするし、落ち込むし、すぐに疲れるし、眠たいし・・。


だから、トトノウという言葉にとても魅力を感じていた。


そんなある日、私にチャンスが到来した。


「銭湯に行かない?」


──トトノウ先輩からだった。


トトノウ先輩は、私にトトノウ魅力を教えてくれた人だ。
先輩から銭湯に誘われたということは、つまり、「一緒にトトノッテみないか?」ということを意味している。


「行く行く!」


私はふたつ返事で返したのだった。


***


トトノウ当日。
待ち合わせは15時銭湯前。

私はすっぴんに日焼け止めだけ塗りマスクをして電車に乗り込んだ。
心が躍る。
ついにトトノウデビューするのだ!


トトノウ先輩は少し遅れてやって来た。
この暑さの中急いで来てくれたのだろう、表情が険しい。
そして、お久しぶりのトトノウ先輩はこんがり焼けていた。


「焼けてるね。どっか常夏の島でも行ったの?」

「ううん、ただの通勤で焼けた」


トトノウ先輩はどこまでも逞しい。


発券機でチケットを買い、いざ大浴場へ──
私はこういうスーパー銭湯は初めてだ。
ずっと疑問に思っていたことをトトノウ先輩にぶつけてみた。


「スーパー銭湯の『スーパー』って、・・・何なん?」

「・・・『スーパー』なんじゃないの?」

「何が、『スーパー』なん?」

「・・・それは、mika、深掘りしてはいけない」


トトノウ先輩がそういうのだからそうなのだろう。


***


トトノウ先輩は、風呂場に持っていく用に小さなメッシュのスパバッグを持参していた。
その中には500mlのペットボトルが2本、化粧水、洗顔、タオルが入っていた。
さすが先輩。
私は何も用意していなかったので、慌てて近くの自販機で水を買い、一緒にカゴの中に入れさせてもらった。
そして、トトノウ先輩はロッカーの鍵を足首につけた。


か、か、かっこいい・・。


私は手首につけていた鍵を足首に付け替えた。
──が、どうも落ち着かなくてすぐにまた手首に戻した。
先輩のレベルにはほど遠い。


まず、私たちは体と髪の毛を洗った。
いよいよトトノウ世界の扉を開けるのだ。
己を清めなければ!


「今日、混んでるなー」


清めた後、ひと口水分を口に含みながらトトノウ先輩が浴場内を見渡す。
私も真似して水を飲み、キョロキョロする。


「キョロキョロしてんなぁー」

「裸がいっぱいやわ」

「まぁ、・・そうだろうよ。じゃ、行くか」


は、はい!
先輩が慣れた足どりで露天風呂の方に歩いて行く。
私は金魚のフンのように先輩のあとについて行った。
トトノウ世界の扉は外にあった。


──ついに85度トトノウ世界の扉が開く。


モワッ


おうっっ
きたぜきたぜモワッがきたぜ。
サウナ内には結構人がいて、私たちは下から2段目の奥に座った。

5分砂時計が置いてあり、トトノウ先輩がひっくり返す。
テレビがあり、バレーボールの試合が無音で流れていて、みんなそれをじーっと見ていた。


85度の中、みんな全裸で一緒にバレーボールの試合を見ている。


──シュールだ。


初めてのトトノウ世界。
息苦しくなって早々にリタイアすると思っていたが案外平気だ。
全身についている水滴は自分の汗なのだろうか。
顔からもポタポタ垂れてくる。

「mikaどうする?一旦出る?」


いつの間にか5分砂時計の砂は落ち切っていた。
私は頷き、トトノウ世界から脱出した。

私たちは体を冷やすためにベンチに座った。

「気持ちぃー!」


心地よい風が吹き、見上げるとうす水色の空が広がっている。


「なんかさぁ、頭のモヤモヤっとしたものがクリアになってスッキリしてるわ」

「おお!それはよかった!」


──これがトトノウということか。



だいぶ体が冷やされたので、岩風呂に入った。
じわっと温かい。
私は凝り固まった首を指でほぐす。
クラクラしてきたのでまた同じベンチで外気浴。


「なんかこのベンチ、私たち専用みたいになってんな」


先輩と専用べンチ、光栄です。


トトノウ先輩がある場所を鋭い目つきで見つめている。
その目線の先には──パルスマッサージバスがあった。
ほどよいビリビリを味わえる電気浴。


「ばあちゃんが、ずっと座ってるんだよね」

「え、ビリビリするの?」

「程よくね。でも、その後サウナに入ると汗がブワッと噴き出てイイ感じになる。あ、ばあちゃんどいた!今だ、mika行くぞ」


私たちはパルスマッサージバスに移動した。
電気が流れるエリアは「弱」と「強」の2箇所あり、トトノウ先輩は迷わず「強」を選んだ。
私は、この手の「電気系」は苦手分野なので、とりあえず見守ることにした。


──トトノウ先輩が「強」エリアに入る。


「オゥッ」


眉間に皺を寄せ、先輩の表情が険しい。


「mika!私の指見て」


スッと湯から出された指が──ティラノサウルスだった。


指が固まってカッてなってたカッて・・



「ちょっと、大丈夫なんそれ」


私は大爆笑しながら先輩の指がティラノってることを心配した。


「大丈夫大丈夫」


先輩はそう言うが、その険しい表情を見ると、もはや恐怖しか伝わってこない。


「mikaもやる?」


私はブンブン首を振った。
先輩はゆっくり電気エリアから出てきて、一言こう言った。


「・・決まった、わ」



一体何が決まったというのだ。
トトノウ先輩くらいのレベルに到達すれば、「決まる」を経験できるのだろうか。


何かが決まったトトノウ先輩と水分補給してから、またトトノウ世界の扉を開けた。


次は、先輩は温度が高くなる上段の方に座り、私は初心者なのでさっきと同じところに座った。


自分の腕の汗を観察していると、汗のかき方が先ほどと違うことに気がついた。
明らからにブワッと噴き出ている。
次から次へとボタボタ汗が出てくる。


おぉ・・すごい。
いいぞいいぞ、出てこい私の老廃物よ。


「mikaそろそろ出ようか」


トトノウ先輩が声をかけてくれた。
どうやら8分経過していたらしい。
外に出ると、トトノウ先輩は17度の水風呂へ躊躇なく入っていく。


──そう、サウナにおける「トトノウ」とは、サウナ・水風呂・外気浴を繰り返すことで心身がリフレッシュされるらしい。
私も水風呂に挑戦してみたかったが、指先をちょっと入れただけであまりの冷たさに即ギブだった。


トトノウ先輩すげぇ・・。


憧れの眼差して先輩を見ていると、なんかもうアスリートのような顔つきで水風呂から出てきた。


それからまた私たちはベンチに座る。


「汗のかき方がさ、全然違ったわ。ブワッて」

「おお!いいね!・・だって、ほら、汗が『シャンパン』。それに『あまみ』が出てる」


先輩が私の腕を指さした。
『あまみ』とは、血行が良くなり皮膚が薄っすら赤くなる現象、とのこと。
っくぅー!トトノウ用語、痺れるねぇ。


──私たちはいろんな話をした。
noteのこと、やりたいこと、仕事のこと、子どものこと。
時刻は17時になろうとしていた。
少し秋めいた風が心地いい。


「トトノったわぁ」

「そう?よかったぁ」


トトノウ先輩は優しく微笑んだ。


お風呂から出た後、一緒に夕食を食べた。





完全に食べすぎた。
せっかくトトノッタとういうのに、デザートにセブンティーンアイスまで食べてしまった。
先輩は「妊娠5ヶ月くらいかな」と言ってお腹を撫でていた。

***

次の日、さっそく向かったのはDAISOだ。


・・あった!
ん?200円の値札がついているじゃないか。
DAISOなのに。
いやいや、何を迷うことがあるんだmika!


私は奮発した。
全ては、トトノウのために。


スパバッグ



夕方5時。
いつもなら這いつくばって上る階段を、私は軽やかに駆け上がった。

ああ、これは完全にトトノッタからに違いない。
さっそくトトノウ先輩に報告しなければ。
そして、こう言おう。


──決まった。


***


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