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私の挑戦〜前編〜胎内記憶「きみが生まれるとき」

生と死に触れています。
苦手な方は読み進めないようにお願い致します。


ざわついた客席。
どこからか、かすかに子供たちの楽しそうに遊んでいる声が聞こえてくる。
客はこのかすかに聞こえてくる子供たちの声に始めは気がつかない。
その声がどんどん大きくなり、誰もがその声に気がついたとき、場内のライトと子供たちの声が消える。

暗闇と静寂の中、ポトン、ポトン・・・と何か神秘的な音が聞こえてくる。

舞台上にうっすらと、何か見えてくる。

どうやら5人の子供たちのようだ。

遊んでいるようにも見えるが、何をしているのかはっきりとはわからない。


中央に光が差し始めると、子供たちは誘蛾灯に寄せられる虫たちのように蠢きながら、その光へゆっくりと向かい始める。

徐々に光が舞台全体を照らし出し、そこは雲の上であることがわかる。

子供たちはいつの間にか横に整列している。
1人の子供(ツキコ)だけを除いて。


そこへ、「先生」がゆっくりと、毅然と登場する。


先生  はい!皆さん、お集まりですね。




「きみが生まれるとき」


芝居が人生だった頃、自分で演劇ユニットを立ち上げた。
その旗揚げ公演の作品だ。


私の3つ上の兄は当時趣味で小説を書いていた。
その小説を原案に、私が友人と脚本を書き、演出も担当した。
何もかもが人生初だった。

私を含め、7人の役者で舞台を創り上げた。

私は「ママ」役として舞台にも立った。


生まれる前の子供たちの話だ。


子供たちは雲の上にいる。
集められた子供たちは、先生のもとでいろんなことを勉強し生まれる準備をする。
生まれる前、子供たちは一体どんな話をしているんだろう。
どんなことが繰り広げられているんだろう。


この脚本を書いている時、新聞に載っていた記事がたまたま目に飛び込んできた。

「胎内記憶」の記事だった。


「胎内記憶」ご存知だろうか。子供が母親のお腹の中にいた時の記憶のことだ。
この記事を書いた胎内記憶研究の第一人者でもある池川明先生の本を読み漁り、先生に手紙を書き、舞台に招待したりもした。


この作品は私の中で特別である。


私が初めて手がけた脚本であること。
「胎内記憶」という神秘的なテーマに今でも心が惹かれること。

そして


「先生」役を演じた彼女が、天国に旅立ってしまったということ。


彼女の「先生」が大好きだった。
私のイメージする「先生」に一生懸命近づこうとしてくれた。
いろんなアイデアを出してくれて、当時の私を支えてくれた。
いつも元気に笑っていた。


久しぶりに会った彼女の目はもう開かなかったけれど、でも、たくさんの花に囲まれた彼女は本当に綺麗で、今にも「mikaちゃん!」って目がパチっと開きそうな気さえした。


彼女の遺影を見ながら不思議な気持ちになった。


彼女と駆け抜けたあの日々は確実にあった。
その記憶は無くならない。
彼女は何処にいってしまったんだろう。
私の心の中にちゃんと今もいるのに。
彼女は、何処にいってしまったんだろう。


死んだら、どうなるんだろう。

こちら側の彼女は、私の心の中で生き続けている。
あちら側の彼女は?あちら側で生きているのかな。
それとも、ゼロになっちゃうのかな。
本当に何にもなくなっちゃうのかな。


そんなことを、思ったりした。


当時のメンバーも何人か揃い、献杯の時に話をした。


「○○が、私たちをまた引き合わせくれたね」


とみんなで話していた時、私の中で何かがふ、と生まれた。
その時はそれが何なのか分からなかった。


それから数ヶ月が過ぎたある日。

子供たちのうちの1人、「カエデ」役を演じた子から手紙が届いた。


そこには、手紙と1枚のハガキが入っていた。



「胎内記憶」という作品だそうだ。
彼女は、これを手にした時「きみが生まれるとき」の舞台を思い出したそうだ。
彼女も今や2児の母。
親になった今、もう一度あの作品を舞台でやりたい!と書かれていた。


これだ



数ヶ月前、私の中に生まれたもの。


もう一度、この作品を舞台で観てみたい。

その気持ちをはっきり感じられた。


「先生」役の彼女が天国へと旅立ち、作品の中のある台詞を思い出した。


ずっとなんか生きれないんだ。生まれるってことは終わりに向かうってことなんだ。死ぬんだ、みんな。


生まれるということ
死ぬということ


この2つが私の中で結ばれた瞬間だった。


私は、既に芝居の世界からは離れてしまっている。
そうでなかったとしても、今の家庭の事情から考えて昔のように舞台を創り上げることは到底無理だ。


だとしたら、この作品を形にしてくれる人は誰か。
この大切な作品を託せる人は誰なのか。


私の頭には、あの方の顔しか浮かばなかった。


「続けることが才能だ」


芝居のしの字も知らない私に、その言葉をくれた人だ。


「できないと思った瞬間からできなくなる」


諦めようとする私に、その言葉をくれた人だ。


「つまんねぇ。これっぽっちも面白くない」


うまくやろうとする私を、一喝した人だ。


バカになれ、いつも怒られた。

芝居の恩師だ。
先生しかいない。


そんな時、先生の独唱会があることを知った。


私は脚本を引っ張り出し、コピーした。


表紙なくて手書き笑



独唱会に行き、先生に売り込むしかない。
熱い思いを綴った手紙も添えて。




自分に必要なメッセージは、自分の必要なタイミングになんらかのカタチで届く。
人だったり風景だったり言葉だったり出来事だったり。

そんな気がする。
そのメッセージを受け取ったら行動あるのみ。


この記事を書きながら、金槌で何か工作してる8歳の長男に何気に聞いてみた。


「お母さんのお腹の中にいた時の記憶ってある?」

「・・・あるよ」


と、金槌をトントンしながら息子は言った。


え、あなたあるの?



初めて聞いた。
そうか、聞いたことなかっただけか。


「なんかね、水色の薄い水みたいなのがあって、上にほわほわした雲が浮いてて、椅子に神様みたいな人が座ってた」


トントントントントン


「居心地よかった?」

「うん」

トントントントントン


「今さ、お母さんに聞かれて、頭の中にあった暗い倉庫の中からメモを取り出してそれを読んだ」

トントントントントン


金槌の音が静かに響いた。
言葉が出なかった。

息子にも、そんな記憶があったなんて。
しかも、頭の中に閉まってあったところから引っ張り出してくれたんだ。


金槌でトントンしている息子を見て、なんだかものすごく尊いな、と思った。




キョーコ  
世界に行ったら空を見上げるんだ。たくさんのことがあったこの場所を思い出すんだ。

ツキコ   
僕かい?僕はあとでゆっくり考えておくさ。あまり興味がないんだよね、生まれるってことに。

エレコ   
俺がロックを愛したのか、ロックが俺を愛したのかそれはわからねぇけどな。とにかく、俺は世界に行ったらロックをするのさ。

サキコ   
ママかぁ。なんだか素敵ね。たった一人なのね、広い世界の中で。

カエデ   
ぶりっ子なんかしてないわ!ほんとになんだか胸の中がキラキラした何かでいっぱいなの。

先生    
いいですか、みなさん。生まれることは、とっても素晴らしいことなんです。世界では、常に時が進んでいます。毎日、新しい時間が生まれては流れ生まれては流れていきます。その新しい時間の中をみなさんは、自由に生きていくのです。新しい空、新しい風、そして新しい光。毎日が新鮮で、毎日が初めてです。

ママ    
あなたが世界に生まれたら、あなたの体重の分だけ世界は重くなるの。



この人たちにもう一度息を吹き込みたい。
この人たちにもう一度会いたい。


「先生」を演じた彼女に、もう一度会いたい。届けたい。


私はそう強く思いながら脚本を入れた袋を胸に、先生の独唱会へと向かったのだった。

後編に続く。

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