朝からまさかのジャッキーチェン
「お母さん・・・」
くる。
私は、ヘアアイロンで髪の毛を整えながら察する。
あの言葉。
「今日居場所行きたくない」
ほらきた。
今日は水曜日。前回の月曜日に居場所で嫌なことがあったらしく、しかもあいにくの雨。
条件が揃っている。
「そっか〜なるほど」
とりあえず魔法の言葉で受け取る。
ここから、だよね。
押すべきか、押さぬべきか。
不登校の親なら誰もがぶち当たるであろう、この問題。
判断に迷う。
本人も、儀式のようになんとなく「行きたいくない」って言う時もある。
その時は、ご褒美作戦や、お楽しみ作戦などでツンツン背中を押すと行く場合が多い。
しかし、中には本当に「行きたくない」時がある。
今日はどっちの「行きたくない」だろう。
「行っても頼れる人がいない。何もすることがない」
最近よく出る言葉だ。
チロリンと夫からLINEが届く。
『半分泣いてるし、今日は行かない方がいいかも』
うーん、今日は後者か。月曜日にあった出来事の傷が結構深いのかもしれない。
「じゃあ、今日はもう家でのんびりしたら」
「・・・何すればいい?」
これも、最近よく言う。
お絵描きや工作の創作意欲が今はお休み中の息子。弟は預かり保育。ゲーム時間が終わると何もすることがないのだ。だからと言ってこちらからの提案はことごとく拒否する。なのに聞いてくる。
「映画でも見たら?楽しい作品もっとたくさんあるんだよ」
息子はアニメはポケモンや、スポンジボブなど、決まったものしか見ない。
「名探偵コナンは?ドラえもんは?ワンピースは?」
いろいろ言ってみたが、なんだかんだ文句を言って拒否。
ああ、何か、何かないかな。
息子の心を鷲掴みするような、、何か。
と、その時。
なぜかわからないけど彼の顔が私の頭に浮かんだのだ。
「ジャッキーチェンはどお?」
ジャッキーチェン
私が息子くらいのときに流行り大好きだった。
当時の私の下敷きはジャッキーチェンだった。その時に好きだった、金田くんだか金山くんだかにもらったものだ。その下敷きを何処ぞの男子に取られて金田くんだか金山くんだかが、取り返してくれた思い出がある。キュン。
「ジャッキーチェンて何?誰?」
「お母さんが○くんくらいのときに大好きだったの。おもしろいよ!アチョアチョするやつ」
私はアチョアチョしてみせた。
ジャッキーチェンの作品はわかりやすく楽しめるはずだ。
「見る!」
よし!息子が食いついた!これで、ネイルに行ける!
そう。私はこの日、息子が居場所に行っている間にネイルサロンに行く予定をしていたのだ。
息子は夫が在宅に変わってから留守番ができるようになった。まぁ2階に夫はいるのだが、息子にとっては、それは、すごいことなのだ。
「じゃあお母さんその間ネイル行ってくるね♪」
「お母さんとジャッキーチェン見たい」
え。
うそん?
まじ?
まじ卍?
「え・・・お母さんも?」
「ひとりで見るなんてやだ。さみしぃーー!!!」
ああ、めんどくせぇことになってきた。
どうする?
どうするmika!!
考えるんだ!!
このネイル限界な指先を見せてアピール作戦だ!
「お母さんさ、ネイル予約してて。見て!これ!こんな伸びちゃって、ネイル浮いてるからさ、もうさ、髪の毛洗う時に爪の間に髪の毛引っかかって痛いねん!痛いねん!」
念押しで「痛いねん」を2回言ってみた。
「・・・だけどぉぉぉさみしいぃぃぃ」
アカン。
僕さみしいのゾーンに入ってしまった。
めんどくせぇ。
どうする?
どうするmika!
時刻は8:30。
ジャッキーの作品は一体何分だ?
ところで何の作品見る?
よく見ていた作品なんだっけ。
よみがえれ私の記憶!!
金田くーん!金山くーん!
・・・・・ポリスストーリー!!!そう!!ポリスストーリーだ!!
時間を調べると106分。
家を10時半に出れば予約時間に間に合う。
今から見ればいけるかも!
「わかった!じゃあ、今から見よ今から!」
ゴネゴネゴネゴネゴネゴネゴネゴネ言い続けている息子の顔がパァッと笑顔になった。
私は朝ごはんがまだだった。
「お母さん、朝ごはん見ながら見るわ!」
「えー、お母さん見ながらごはん食べるのー」
いつもやらないことに、息子がウキウキしている。
私の朝食は決まっている。
白いご飯に納豆、キムチ、ジャバンのり、お味噌汁、チチヤスヨーグルト
これをテレビ部屋に運び、食べながら、ポリスストーリーを見る、私。
キムチ納豆食べながら、懐かしのジャッキーチェンを見る、私。
お味噌汁すすりながら、転げ落ちるジャッキーチェンを見る、私。
「どれが悪者?」
「これ、ほんとに落ちてるの?」
「こんなに車めちゃくちゃにしてぇ、もったいない!もったいないよねぇ!ねぇ?」
いちいちうるせぇ!
ジャッキーに集中させて!!!
私はジャッキーに夢中になっていた。
今見てもやっぱりおもしろい。
駄菓子菓子
こんな朝早くからジャッキーチェンを見るとは思わなかった。
途中裁判の場面は息子は退屈そうだったが、やっぱりアチョアチョのアクション場面では瞳をキラキラ輝かせて釘付けになって楽しんでいた。
あっという間の106分。
時刻は10:20。
「じゃあ、お母さんネイル行ってくるね!!」
「ネイル行かないで」
ぱーどぅん?
いやいやいやいや、何をおっしゃるうさぎさん。行く行く。お母さんはネイル行くよ。
息子は寂しそうな顔をしていたが、ゲームしとくってことで何とか出かけられた。
ネイルしてても、パジャマ姿の寂しそうな息子が脳裏に浮かぶ。
泣いてないだろうか。
落ち着かない。
早く帰らなくちゃ
早く帰らなくちゃ
ネイルが終わり、そのまま弟を園まで迎えに行き、急いで帰った。
「おかえりー!!!!○くん!ゲームやろ!早く手を洗ってきて!!」
めっちゃ元気やん。
ちゃんと着替えてるし。
用意してたお昼ご飯のおにぎりも食べてるし。
めっちゃ元気やん。
私の頭の中にあった寂しそうなパジャマ姿の息子が遠くで手を振っている。
なんだか気が抜けて、ものすごく疲れてしまった。
気が抜けてしまった私はその後、なぜかトイレ掃除をした。
トイレ掃除していると遠くで弟ときゃっきゃ楽しそうにゲームをしている息子の声が聞こえてくる。
もう、なんなんまじで。
いつも振り回される。
ほんと疲れる。
いちいち一喜一憂しないで、もっと、でーんって構えてられないものかと思う。
・・・でーん、憧れるな。
私はトイレシートを流しながら小さなため息を一つついた。

