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河本探偵事務所奇談 第七話 「猫の真実」

「猫が逃げたんですね」

中肉中背のその男は首を縦に振った。

「はい、でもただの猫じゃないんです」

「三毛猫のオスは希少ですし、高額なんです」

「メスとオスでそんなに違うんですか?」

「天と地程の差ですね」

「猫の名前を教えてください」

「ミケです」

「そのまんまですね」

江口が苦笑いをした。

「お願いします。必ず見つけてください」

「石山さん、必ず見つけますよ」


「河本さん、猫探しなんてできるんですか?」

「……一応探偵だからな」

コーヒーを飲みながら猫の写真を見た。

「それ、答えになっていませんよ」

「とりあえず、聞き込みと近所を見て回るか」

「猫探しなら餌持っていたら捕まえやすいよ」

「和樹くん、教えてくれてありがとう」

「うん、友達と探したことあるから」

「江口、ペット屋に行くぞ」

「河本さん、猫じゃらしも持って行ってくださいね」

「佐藤さん、ありがとう」


「猫じゃらしはこれでいいか」

「後は餌ですね」

「種類がありすぎてどれがいいのか分からないな」

「猫の餌ですか?」

隣で猫の餌を持った男が話してきた。

「ええ、猫を探してるんですけど、猫が好きな餌がわからなくて」

「なら、これなんかどうでしょうか?」

「液状スティックタイプで猫が喜びますよ」

「教えていただきありがとうございます」

「猫を飼っているんですか?」

「ええ、いなくなっていた子が帰ってきたんです」

「それは良かったですね」

「猫、見つかるといいですね」



「親切な人でしたね」

「ああ、ああいう人の猫は幸せだろうな」

「そうですね」

「さてと、この辺の公園から当たるか」

「……なんだかおかしいですね」

「江口、何がだ?」

「いや…河本さんに猫じゃらし……」

「仕事だ、しょうがないだろ」



「この辺りでこの猫見ませんでしたか?」

ベンチで座っているおばあちゃん。

「見かけないね」

「ありがとうございました」

「なかなか見つからないですね」

「ここも違うのか」

「その猫、中田のおじさんちのミーコだ」

遊んでいた子供たちが言った。


「オスなのにミーコ?」

江口が言った。

「呼び方なんて人それぞれだろ」

「…まあ、そうですが」

「中田さんすみません、少しお話をお伺いしたいのですが」

長屋の端っこの扉を叩く。

ガラガラ。

「あっ」

「……さっきは餌のことでどうもありがとうございました」

「どうしたんですか?」

「…ああそうですね。中田さんのミーコのことでお話をお伺いしたいんですが」


「中田さんは友人から子猫をゆずりうけている」

「それも、三毛猫のオスメス関係なく」

「河本さん、なにかおかしいですよね」

「ああそうだな……」

「……中田さんが嘘をつくとは思えない」

「猫も懐いていますしね」

「ああ、そうだな……」

河本は白あんぱんを食べた。

「珍しいですね」

「ん?」

「白あんぱん」

「ああ、売り切れていた」

ブラックコーヒーを口にする。

「何ヶ月かミーコが行方不明だったのは、石山さんの所にいたからですかね」

「……」

「石山さんのことも調べた方が良さそうだな」


「石山さん、これだけの動物たちを育てているんですね」

「ええ、どれも珍しい種類ばかりですよ」

「ここは爬虫類の部屋です」

「うわっ大きなヘビもいますね」

「江口、落ち着け」

「集めるのも大変でしたよ」

「こっちの部屋は小動物です」

「この白くて目の色が違う猫はなんですか?」

「それは、ターキッシュアンゴラですね」

「珍しくて綺麗でしょ」

フーッ!

「うわっ、なんか怒ってますよ」

「いつもそんななんです」

「こんなに飼ってたら世話も大変でしょう」

「ええまぁ…」

「でも、見てるだけで幸せですから」

「そうですか……」

「あ、その部屋はまだここに慣れていない動物の部屋ですので、入るのはご遠慮ください」

「ああ、すみません」

「ミケちゃんはまだ見つかりませんが、もう少しお時間をください」

「ええ、なるべく早めにお願いします」


「探偵のおじさん、友達の猫も探せる?」

「二週間くらい前に部屋から居なくなったんだって」

「和樹くん、その友達の両親を連れてきてくれればお話聞きますよ」

「うん、白くて目の色が違うとっても可愛い猫なんだ」

「……それって」

「江口、まだわからん」

「他に居なくなったペットがいるかもしれないな」


「調べた結果は……」

「石山さんがますます黒くなってますね」

「江口急ぐな」

「ここ一年でも数件珍しいペットが消えているな」

「ペット屋さんじゃ石山さん常連みたいですね」

「……そうだな」

ブラックコーヒーを口に入れる。

「さてと、三毛猫の件はどうするかだな」

「中田さんのミーコも近所では昔から飼っていることが知られているし……」

「ミーコがミケだという証拠はないが、居なくなった期間が石山さんのところにいた頃と同じと言うのがな……」

河本はコーヒーカップを机の上に置いた。

「……長島警部に相談してみるか」


「河本、差し入れありがとうな」

長島警部が箱を開ける。

カステラが入っている。

「それでなんですが……」

カステラを部下へ渡す。

「ペットが居なくなったとの届出がどれくらいあるか知りたいんですが」

「なんか訳ありか?」

「ええ、ちょっと気になることがありまして」

「……なにか事件が起こりそうだな」

「いえ、まだですが……」

「……」

ガチャッ。

女性の事務員がお茶とカステラを持ってくる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「まぁ、調べてみる」

「それと、石山保徳さんが被害届とかなにか出されているかも」

「わかった、それも見ておく」

カステラを口に入れる。

「ミスったな」

「河本、何がだ?」

「水分が持っていかれる」

「……」


「えっ、石山さんが中田さんのところに?」

「猫を返せと怒鳴っていたらしいです」

「石山さんの話ではチップを入れているから自分のところの猫だと」

「……石山さんの猫の出処をはっきりさせますか」

「江口、どうやって中田さんの猫だと証明するかだな」

「ねぇ探偵のおじさん、猫は本当の飼い主知ってるはずだよ」

「和樹、お仕事邪魔しないの」

美咲は和樹の腕を掴んだ。

「……和樹くん、ありがとな」

河本は和樹の頭に手を置いた。


「河本さん、知っていたのに酷いじゃないですか」

事務所に石山の声がひびきわたる。

「ミケがミーコかどうか調べていました」

「うちの猫ですよ」

「どこで手に入れましたか?」

「知人に飼っていた猫が仕事の都合で飼えなくなったと言われて」

「その知人を教えてください」

「あなたは私に雇われた探偵ですよね」

「なんでそこまで言わなきゃいけないんですか?」

「ミケがミーコなら窃盗罪になるからです」

「知人は海外に行ったので連絡できません」

「……そうですか」

「中田さんのミーコは家の中で飼われていました」

「お散歩もリードをつけて公園とか一緒に出ていたそうです」

「ミーコが居なくなった時、中田さんは外出していました」

「帰ると窓が割れていてミーコが居なくなっていた」

「そんなの知りませんよ」

「警察に届け出もしてありました」

「……」

「今捜査中だと思いますが……」

「……証拠もないのに」

「中田さん、どうぞ」

部屋のドアが開いた。

中田さんと三毛猫を抱いた江口がいた。

石山の横に中田が立った。

「名前を呼んであげてください」

江口がそっと床へ猫を下ろす。

「ミーコ」

「ミケ」

二人を見上げる猫。

迷わず猫が歩いていく。

中田の足元に頭を擦り付けた。

「……」

「ずるしましたね。餌の匂いをつけてるんでしょ」

「この子は珍しいんですよ」

「ミケ、来るんだ」

フーッ。

猫が毛を逆立て爪を手に向けた。

「やめなさい」

長島警部が入ってきた。

「石山さん、詳しいお話をお聞かせください」



「それにしても、他にも許可なしで飼育許可動物を飼っていたとか……」

「ああ、あの奥の部屋だろうな」

「イヌワシにニシキヘビ、ガラガラヘビ……見るからに怖そうなんですけど」

「保健所がてんやわんやだそうだ」

「盗まれたペットたちも持ち主に返されたそうですね」

「そうだな」

「中田さんのところから石山の指紋が出たそうだし」

「窃盗罪も確定だな……」

「もう、ミーコも安心ですね」

「そうだな」

「それでなんですが……河本さん、なんかさっきから痒くて」

「江口、多分それ猫アレルギー」

赤い手をさする江口。

「病院いった方がいいですかね」

「さあな、自分で考えろ」


#河本探偵事務所奇談 #短編小説 #三毛猫 #猫探し
※みんなのフォトギャラリーより
(しのあや 紅里(こうり)さん)

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