【3分で読める恋物語】さよならの前に、誰かが見つけてくれますように。
#片想い文芸部 ✨📕💕
「落とし物」
――「あの日、君は雨の中にいた。」
電車が遅れてて、ホームでぼーっと立ってたら、足元に赤い傘が落ちてたんよ。
誰のかはわからん。でも、なんやろな……目が離せへんかった。
なんとなく開いてみたら、内側にちょっとだけ、かすれた字が書いてあった。
「さよならの前に、誰かが見つけてくれますように。」
意味深で、なんか変な言葉って思った。
けど、それが自分に向けられてる気もして、胸がちょっと、きゅってなってさ。
それから、その傘、ずっと持ち歩くようになった。
赤なんて普段選ばんし、スーツからだいぶ浮いていたんやろうけど、全っ然気にならんかった。
むしろ、ほかの傘を差す気になれへん。不思議やけど、なんか落ち着いたんよ。
じめじめした鬱陶しい初夏の空気の中でも、その傘があると、ちょっとマシな気がしてた。
ある日、駅の近くでその傘をじっと見つめてくる女の人がおって、ふと目が合って。
濡れた前髪の先を指で整えながら、イヤホン片方外して、顔だけこっちに向けてじーっと見てた。
その目が、
…雨水が反射した目が、めっちゃキラキラしてて……それがあまりにキレイでさ、俺、思わず見惚れてしまったんよ。
そしたら、
「……その傘、中に文字、書いてませんか?」
って、突然、その人が話しかけてきて、
「え!?ぅあっ!はっ!はぁ!」なんて、ただの返事をめっちゃ噛んで、すんげぇ恥ずかしかった。
顔、赤かったと思うけど、この傘のせいにしとこ。
「それ、たぶん、私のです。」
そう言って、彼女が柔らかく笑った。
その瞬間、ふわっと空気が和らいで、距離もなんか、不思議と近くなった気がしたんよ。
あぁ、この人、誰かを待ってたんや。って思った。
それから、雨の日はたまに一緒に帰るようになった。
別に約束してるわけでもないのに、なんとなく、タイミングが合って。
もう……運命やん、って思った。
春、到来やん。って。
…いや、今から来るの、夏やけど。
駅前のコンビニで缶チューハイ買って、
「レモンは甘すぎるから、グレープフルーツ派」って笑う彼女と、
どうでもええ話して、信号待ちでふと目が合って。
でも彼女は、すぐ視線を外して、でも口元だけはふにゃって笑ってて。
――あれ、ずるいな。ほんまに。
「夏が来たら、ここを離れなきゃなの。」
ある日、ぽつんって、彼女が言うた。
「……そうなんや。」
それしか言えへんかった。
ちゃんと考える前に、なんか、目だけが空を見てた。
夏がはじまる頃、彼女はいなくなってた。
連絡も取れんくて、うちの前に、あの赤い傘だけが残されてて。
中には、あの時と同じ言葉。
「さよならの前に、誰かが見つけてくれますように。」
その下に、ちっちゃく文字が足されてた。
「……ありがと。見つけてくれて。」
今日また、駅のホームで、同じような赤い傘を見つけた。
誰のか、なんてわからん。でも、気づいたら手を伸ばしてた。
顔も、声も、だんだんぼやけてきてるけど、
あの夏のはじまりの、雨の匂いだけは、まだ体に残ってる気がする。
そして、自分がずっと誰かのことを見てたってことも。
…それがなんやったんか、ようわからんけど。
でもたぶん、これはもう、ただの——
落とし物。
imagined with : 雨後の月 特別純米
