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二人組のスリにあって

連休前に会社の飲み会があった。今回は社長が来れず、支店長も来れずというせいか、OBやOGがやってきて、さらには全く関係のない子供まで同席という、私も誰か友人を連れてきたいくらい賑やかな会になった。

その18歳の女の子は小学3年生の時から母親と飲み会に参加する機会があったらしく、私なんかよりも多数の大人と家族のように会話をしていた。私は18歳にたいして新しい先輩がすぐそばにいる様な緊張感を持っていた。母親は会社でもベテランの部類に入るので、その子は自分の特権をよく理解しているのだと思う、仕事を何もしてなくても母のキャリアのうち3分の1くらいのキャリアはこの子にもありそうな風格だ、となるとやっぱり私はこの子供になにも勝てないのだった。

そんなライバル心を知ってか知らずか、その子は社員と話をしながら赤い口紅を取り出してそれを塗ると、唇をすばやくンパンパンパンパしてなじませていた。私だったら、そんな小魚の様な早い動きは抵抗があるので、ゆっくりと誰にもわからないように上下の唇を擦り合わせるところだ。でもその子は非常に高速にやっている。そうすると人から見えなくなるとでも思っているのだろうか。そうかもしれない。現にその子と話す男性課長は、そんな異様な動きが目に入っていないかのごとく顔色一つ変えず会話を続けている。

私はその赤色が満遍なく唇に広がっていく様子を見届けると、下を向いてもくもくと中華を食べるのを再開させた。

縁もたけなわ、となる頃に、子供の母親から言われた。「私、あなたの年齢が本当に謎なのよ」と。

その母親は、はっきりとした性格なのに私に話す時は「かわいい」と手加減する様な話し方をする時があるので、年齢が幼く見えているからではないか、ということはうすうすわかっていた。ただ、ミスをしてしまった時も「大丈夫よ」などと言ってくれることがあり、大変助かっていたので、年齢がいくつなのか?という質問は、そんな魔法の時間が終わってしまうことの合図のようにも思える。

私は「きっと幼く見えているんだと思います」と正直に答えると、
「ほんとうにわからないのよね〜」と面白そうに返してきたので
「じゃあ、言わないでおきます」と返した。
するとその人は「ははは!」と笑ってくれ、とりあえず、みんなの見ているこの場での発表を免れた、と思った、その時だった。

18歳がテテテっと私のすぐそばに駆け寄ってきた。そして耳元で内緒話のポーズをして、「教えてください!」と囁いたのだった。
私は予想外の距離感にドギマギしつつ、自分のプライバシーを守ることよりも18の娘の期待に答えられるのか?という天秤にかけられていると感じた。

10秒くらいモゾモゾした後に、私はこっそり自分の年齢をその子に耳打ちしてやった。
するとその子は「嘘!嘘を言わないでください!」とびっくりしている。私は少し嬉しい気持ちで「本当です、内緒にしてくださいね」と返した。そんなに隠す様な乙女な年齢じゃないにせよ、やはり内緒話なんだから、その前提条件をこの子供にわからせておきたい。女と女の約束だ。これで君と私も友達だ。するとその子は

「はい!これはお母さんには絶対に内緒にします!!!!」
と大きな声で答えた。
その大きな声をきいて、いや、この子は、きっと言うなと思った。そういえばこの子は、母親と2人暮らしだ。家に帰ったら、いや、家に帰る道すがら、今日目にしたことや感じたことを全て共有するのだろう。きっと私の年齢もその一つになるのだろう。

私が小さな期待をかけた相手はたぶん二人組のスリだった。それなのに私は女同士の秘密を一つもったような気持ちになっていた。


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