【実体験】第8話「検索魔になった夜ーー“心の不安”との距離」
禁煙もした。
断酒もした。
減塩の食事も続けている。
朝はなるべく散歩して、夜更かしもしないように心がけている。
生活を整えて、身体の調子を取り戻すことに集中していたはずなのに、
ふとした瞬間、何とも言えない不安が心をよぎることがあった。
「これ、ほんとに治るのか?」
「自分の血管って、今どうなってるんだろう?」
「再発とか、しないよな…?」
夜中、目が覚めてスマホを手に取る。
“椎骨動脈解離 再発率”
“頭痛 続く 原因 脳梗塞”
“〇〇 症例 ブログ 40代 男性”
検索しても、安心できる情報なんてほとんど出てこない。
それでも、何か“答え”を見つけたくて、ひたすらスクロールする。
気づけば、夜が明けていた。
SNSも見るようになった。
「#椎骨動脈解離」で検索すると、同じような境遇の人たちが何人もいた。
経験をシェアしてくれている人もいれば、「怖くて外に出られません」という声もあった。
自分だけじゃない。
でも、それが“励まし”になることもあれば、逆に“怖さ”が倍増する日もあった。
気づいたのは、「情報を集めること」と「心が安らぐこと」は別物だということ。
どんなに調べても、心が軽くなるとは限らない。
むしろ、“知らなくてよかったかもしれない情報”まで浴びてしまうことの方が多い。
不安なときにスマホを開くと、たいてい悪化する。
これはもう、自分の中で“確信”になった。
そんな中で、少しずつ意識を変えるようになった。
「先のことを考えすぎると、逆に不安になる」
だから、「今、自分にできること」に集中しようと。
呼吸を整える。
今日、塩分を控えめにできた自分を、ちょっとだけ褒める。
朝に陽の光を浴びて「今日も起きられた」と思う。
そういう“目の前のこと”に意識を向ける練習を、毎日コツコツやった。
ただ、そんな自分に、時々こんな感情も芽生えていた。
「椎骨動脈解離って、脳出血や脳梗塞よりは軽い病気なんだろ?」
「命を落とす人だっているのに、自分は恵まれている方なんじゃないか?」
実際、そうかもしれない。
確かに自分は、入院もせず、後遺症もなく、こうして普通に文章を書いている。
それでも、怖かった。
未来が見えないことが、怖かった。
“命に別状はない”と言われても、“元通りになる保証”はどこにもなかった。
今振り返れば、自分は本当に恵まれていたと思う。
でもだからこそ、完治したら「未病」の段階で気づける人を増やしたい。
「まだ病気じゃないけれど、今の生活は危ないかもしれない」
そう気づいてもらえるような発信をしていきたいと、心から思った。
実はこのあと、療養期間を終えて社会復帰してから、私はうつ病を患うことになる。
この話は、また別の機会にきちんと書こうと思っている。
でも今振り返って思うのは、
この椎骨動脈解離という経験を通して、自分の“心の声”にようやく耳を傾けるようになったということだ。
元気に見えても、心は疲れていることがある。
身体を休めるように、心にも休息が必要だった。
「不安をなくす」のではなく、「不安とうまく付き合う」。
その感覚を少しずつ覚えていくことが、心の回復につながっていた。
今も完璧に安定しているとは言えないけれど、
“自分を否定しない”ことを学べたのは、きっとこの時間があったからだと思う。
※次回(第9話)は、病気を経て「仕事との向き合い方」がどう変わったのか、社会復帰を見据えたときの気持ちを書いていきます。
