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散文詩小説 野辺に咲く花


野辺に咲く花

*この世の端より

わたしは野辺に咲く花。

クロリスと名乗っていた頃のわたしのむくろを、今宵も愛おしみ舐め回す西風の神ゼピュロスよ。
力ずくで我が身が手籠めにされた時、目の裏側を這うように流れた血の涙を凍らせて、わたしはクロリスの身体と名を捨てた。
言葉を持ち動きもするが、クロリスは心を持たぬただのむくろと言って相違ない。わからぬのは其方西風の神、ただひとり。

わたしは野辺に咲く花。
わたしの吐息に乗った種子は、如何なる場所へも辿り着き、如何様にも花を咲かせる。
野辺に送られわたしの頭越しを通り過ぎ、黄泉の扉奥へ入る尊厳があれば、その度ごとに朽ちようとする古木こぼくに花の芽を手向たむけてきた。
流せぬ涙を抱える者に向けて、くる年くる年同じ場所に同じ花を咲かせてきた。
人間が人間である限り、繰り返される愚かさは時に「神よ!」と叫ばせ時に「お母さん!」と叫ばせる。
こころを売り渡した思慮浅き下僕の本音はどちらなのか。

わたしは野辺に咲く花。
欲望を満たすべく獲物を探す者に向けて、ラベンダー畑の幻影を突きつけよう。
行軍の道端をマーガレットやシロツメクサの白で満たしてみせよう。
火薬庫に掛けられた錠前の近くに、匂い立つジャスミンの花を咲かせよう。
銃口を向けた、その先にある大木を薄桃色の花で埋め尽くそう。
吹き上がるが如く、舞い立つわたしの現し身うつしみは言葉を封じ、振り上げる拳など持たずにそこに咲く。
ただそこに咲くのみ。
むくろと化したクロリスには棘のある真紅の切り花を持たせてきた。
ゼピュロスよ。飽きるまでクロリスを囲い続ければいい。凍りついた笑みを浮かべる、その美しきむくろを抱きしめればいい。
それでも、だ。
掴みかかった腕にいつか月灯りが落ちたらならば、その下にただひとつだけの青いネモフィラの蕾を見せよう。それがクロリスのためならば。

春を待つ者達よ。
わたしは野辺に咲く花。
春と花を司る神、フローラと名乗る者。

【了】

土曜絵画に出したイラスト


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆

※野辺 文字を見れば野原の意味ですが、同時にこの世の端(端的に言うと弔いの場)の意味を持ちます。

※ネモフィラの花言葉のひとつに「許す」があるようです。

※ フローラ ローマ神話とギリシャ神話にまたがります。元の名をクロリスといい、見初めたゼピュロスが強引に妻にします。その代償としてクロリスは春と花を司る神となります。
これは遺体と循環のハイヌウェレ型神話であると言う意見もある(わたしは後付け感を感じます)ようです。そうであればフローラの背後には死が見え隠れします。
ここにわたしの妄想を加えました。
なにひとつやらない花テロマガジン共同運営者として、せめて花テロの主旨を織り込みたいと思い、同時に花に対する自分の気持ちを添えつつ今回の散文詩になりました。
因みにたんぽぽは、わたしの妄想にすぎません。花粉を飛ばすより種子をふわっと飛ばす方が良いと思っただけです。
実はたんぽぽはキク科に分類されるのですが、菊の花が葬儀や法事等に使われる機会が多い理由をちょっと調べました。仏事の伝承でもあるのかと思っていましたが、ググって最初に見た答えでそれ以上追うのをやめました。

「日持ちがするから」

らしいです。(´-`).。oO

※ タイトル下の最初の画像はわたしの作りものです。本文最後の画像は、過去に描いたイラストです。最後のたんぽぽ2枚は自分で撮った写真です。
扉絵は今企画用に神話部に提供した画像を使用しました。
(今企画用にご自由にお使いください)

花テロと神話部のコラボ企画詳細はコチラ↓

※この企画の参加noteは、花テロマガジンにも収めさせていただきます。
タグは #花テロ2025ストーリア です。

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吉田 翠*詩文* スキもコメントもサポートも、いただけたら素直に嬉しいです♡