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海の「小さな巨人」が地球を救う?・・・植物プランクトンの働きとは

突然ですが、みなさんは海水をコップに入れて見たことがありますか?

透明で、何も入っていないように見えますよね。でも実は、その中には目に見えないほど小さな生き物が無数に漂っているんです。この小さな生き物「植物プランクトン」が、私たちの命を支えてくれていることを知っていましたか?

植物プランクトンってどんな生き物?

植物プランクトンは、髪の毛よりもずっとずっと細くて、肉眼では見ることができません。大きさは数マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)から数百マイクロメートルほどです。

でも顕微鏡で見ると、驚くほど美しい姿をしています。ガラスのような殻に覆われた幾何学模様の「珪藻(けいそう)」、2本の毛でコマのようにくるくる回る「渦鞭毛藻(うずべんもうそう)」、小さな円盤をつけた「円石藻(えんせきそう)」など、実に様々な形があります。

まだ不明な点も多いですが、種類はすでに分かっているものだけで数万種、まだ発見されていないものも含めると数十万から数百万種もいると言われています。見た目にはわかりませんが、海の中は私たちが想像する以上ににぎやかで多様な世界のようです。

地球を支える3つの仕事

この小さな植物プランクトンが、実は地球にとってとても大切な3つの仕事をしています。

①地球の酸素の半分を作っている

「酸素は森の木が作っている」と思っていませんか?実は、私たちが吸っている酸素の約半分は、海の植物プランクトンが光合成で作ってくれているんです。陸上の森林がもう半分を担っていますが、植物プランクトンなしでは私たちは呼吸することさえできません。目に見えない小さな生き物が、私たちの命を支えているなんて、すごいですよね。

②海の食べ物の原点

陸上で牛が草を食べるように、海では小さな植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、それを魚が食べ、さらに大きな魚が食べます。そう、植物プランクトンは食物連鎖の原点なのです。

マグロも、クジラも、お寿司のネタも、みんな元をたどれば植物プランクトンのおかげで生きているんです。植物プランクトンは「海の牧草」とも呼ばれ、海の生態系全体を底から支えています。

③二酸化炭素を吸収して地球温暖化を防ぐ

これが今回のコラムの本題です。もう少し詳しく見ていきましょう。

地球温暖化を防げるか?

植物プランクトンは光合成のときに二酸化炭素をたくさん吸い込みます。そして死ぬと「マリンスノー(海に降る雪)」となって海の底に沈んでいき、体の中に閉じ込めた炭素を海底に運びます。

これを科学者たちは「生物ポンプ」と呼んでいます。海で作られた植物プランクトンの約70〜90%は動物プランクトンなどの食料として消費されますが、残りの10〜30%が海底に沈み、炭素を深海に封じ込める役割を果たしていると言われています。

そこで、あるアイデアが生まれました。

「大気から海に溶け込む二酸化炭素が増えれば、それを使って植物プランクトンも増えるのではないか。そうすれば、もっとたくさんの二酸化炭素を吸収させて、海底に閉じ込めることができるのではないか?」

もし実現できたらすばらしいと思いませんか。

でも、ひとつ問題が

植物プランクトンが光合成をして増えるには、二酸化炭素だけでは足りません。リン(P)や窒素(N)といった栄養分も必要なんです。

そこで科学者たちは、これらの栄養分が豊富な海域を探しました。それが南極の海だったのです。

南極の海の不思議

南極の海には、窒素やリンなどの栄養分が豊富にあります。深い海から湧き上がってくる流れが、これらの栄養分を運んでくれるからです。

ところが不思議なことに、植物プランクトンは少なく、まるで「氷の砂漠」のような状態になっていました。栄養分がたっぷりあるのに、なぜプランクトンが育たないのでしょうか?

調べてみると、光合成に必要な「鉄分」が足りないことが原因だと分かりました。鉄は陸地から川によって海に運ばれますが、南極の周りには大陸が少なく、鉄の供給が限られていたのです。

つまり、南極の海は「栄養はたっぷりあるのに、鉄が足りないせいでプランクトンが育たない場所」だったんです。

ということは、鉄さえ補えば、すぐに植物プランクトンを爆発的に増やすことができるはずです。

南極で行われた実験

科学者たちは実際に南極の海で実験を行いました。

アメリカのSOFeX(サザン・オーシャン・アイアン・エクスペリメント)プロジェクトや、インドとドイツが協力したLOHAFEX(ロハフェックス)プロジェクトなどが有名です。

実験では、海に細かい鉄の粉をまきました。鉄を1トンまけば、計算上は数万トンの炭素を海底に沈められるはずでした。

すると驚くべきことが起きました。

実験は成功した…ように見えたが

鉄をまいた海域では、植物プランクトンが爆発的に増えました。数日で海の色が変わるほどの増殖が見られ、実際に海水中の二酸化炭素濃度が下がることも確認されました。光合成が活発に行われ、大気から二酸化炭素がどんどん吸い込まれていったのです。「プランクトンを増やす」という点では大成功でした。

しかし、大きな壁にぶつかった

しかし、大きな問題がありました。

一番の問題は、増えたプランクトンの多くが海底に沈む前に、動物プランクトンなどの小さな生物に食べられてしまったことです。

食べられたプランクトンは、動物の呼吸によって再び二酸化炭素として大気中に戻ってしまいます。炭素がリサイクルされてしまい、海底への「沈降効率」が予想以上に低かったのです。

肝心の「炭素を海底に長く閉じ込める」という目的が、思うようにうまくいかなかったのです。

さらに、いくつかの心配なことも明らかになりました。

  • 特定のプランクトンだけが増えることで、食物連鎖全体のバランスが崩れる可能性

  • 別の温室効果ガス(メタンや亜酸化窒素)が発生してしまう可能性

  • たとえ海底に沈んでも、それが数百年単位でそこに留まる保証がない

  • 有毒なプランクトンが大量発生してしまうリスク

そう簡単にはいかない

科学者たちは、海という巨大なシステムの複雑さを改めて知らされることになりました。「鉄をまけば解決!」という単純な話ではなかったのです。

自然界には、私たちがまだ理解しきれていない無数の相互作用があり、一部だけを操作しても思い通りにはならないようです。

効果の不確実性と生態系への影響が心配されたため、2008年には国際条約(ロンドン条約・ロンドン議定書や生物多様性条約)によって、大規模な鉄散布実験は科学研究目的以外は原則認めないことが決められました。商業目的での実施も厳しく制限されています。

新たな試み

現在は、鉄散布以外のアプローチが研究されています。

海藻(ケルプ)を養殖して沈める方法や、海水のアルカリ化など、より自然に近いサイクルを利用する方法が注目されています。これらは、生態系への影響を最小限に抑えながら、効果的に炭素を貯蔵できる可能性があります。

まとめ

植物プランクトンは、私たちが吸う酸素の半分を作り、海の食物連鎖を支え、二酸化炭素を吸収する、地球にとって欠かせない存在です。

地球温暖化対策として、植物プランクトンを増やして二酸化炭素を海底に閉じ込めるアイデアは魅力的でした。しかし南極での実験を通じて、自然のしくみは私たちが考えるよりもずっと複雑であることがわかりました。それでも、この挑戦から学んだことをもとに、科学者たちは今も新しい方法を研究し続けています。

目に見えないほど小さいけれど、地球を支える大きな力を持つ植物プランクトン。この小さな生き物たちとどう向き合っていくかが、我々にとっても重要なテーマとなっています。

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冒頭イラストはai(jemini)で作成


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