「カツオ愛」に溺れた初夏。自作のたたきで土佐の味を極める
最近、カツオのたたき作りにはまっている。
高知県に住んでいると、水揚げされたばかりの新鮮なカツオが簡単に手に入る。スーパーでも調理済みの商品がたくさん売られているが、どうせなら自分の手で料理しようと思い立ったのだ。
太平洋を北上する上りガツオは初夏に旬を迎える。飲み仲間も強引に誘い込み、煙にいぶされながら土佐の味を極めた。


私は高知県中部の田舎で暮らしている。「土佐の一本釣り」で知られ、カツオ船の基地となっている中土佐松久礼までは、車で20分とかからない。この漁師町では、400年以上もから一本釣りが行われてきた。「久礼獲れのカツオ」は、一種のブランドになっている。
高知県民にとって、カツオは最も親しみ深い魚である。たたきににしろ刺身にしろ、みんなが味にうるさい。大皿に盛ったカツオ料理を囲み、酒を飲みまくるのが宴会の定番である。


カツオのたたきは、皮つきの身を炎にかざし、表面を程よく焼く。燃料に藁を使うと、燻製を思わせる独特の香りが立つ。高知の代表的な郷土料理であり、テレビの旅行番組でもよく取り上げられる。県内の居酒屋なら、たいていメニューに載っている。
当然のことながら、自宅で調理する人も多い。幸いなことに、私の家には道具がそろっている。たまたま飲み友達の家にあったのを借り受け、いつでも宴会ができるようにしている。
カツオのたたきは、ガスコンロで焼くこともできる。しかし、香りを楽しむなら藁焼きに限る。友人の家には、鉄工所で働いていた父上が作った専用の焼網があった。格子状の焼網に長さ1.5㍍の柄が付いている。
藁を燃やす炉は、古い燃料缶を利用している。側面にいくつも穴が開いており、乾燥した藁ならマッチ1本で点火できる。



料理といっても、カツオのたたき作りは難しくない。藁を燃やす場所さえ確保できれば、だれでも簡単に体験できる。
まずはカツオを買ってきて、身を引き締めるために適量の塩をふりかける。焼網に並べたら準備完了。後は缶の中に突っ込んだ藁を燃やし、カツオを一気に焼けばいい。慣れたら10分とはかからない。
藁の火力は相当強いが、ひとつかみが十数秒で燃え尽きる。炎が上がった瞬間、間髪入れずに焼網を差し入れる。私は以前、バーベキュー用の金網にカツオを載せ、藁焼きしたことがある。
その時は想像以上に大きい炎にビビり、腰が引けた。もしも衣服に燃え移ったら、自分がたたきになる。専用の焼網を使えば、安全、確実に仕上げることができる。

カツオのたたきで一番注意が必要なのは、身を焼き過ぎないようにすることだ。時間をかけ過ぎると、内部まで火が通ってしまう。そうなると、ただの焼き魚になる。
たたきは刺身の一種であり、表面だけ処理すればいい。
①藁に点火する
②炎の中心部にカツオをかざす
③火が衰えたら、すぐに引っ込める。
スピードこそ命である。焼き加減が心配となり、何度も繰り返したら確実に失敗する。
高知のカツオは、刺身でも抜群においしい。多少、焼きが足りないというぐらいが、ちょうどいい。


藁焼きを終えたカツオは、氷水に通して一気に冷やすか、そのまま置いて自然に冷やす。私のお勧めは、後者の方法だ。
氷水にくぐらせると、確かに身が締まるが、たたきの持ち味である香りが薄れてしまう。どうせなら、藁焼きならではの香りと食感を満喫したい。
身が冷めたところで、厚めに切り分ける。そして、ニンニク、ミョウガ、大葉、玉ねぎの薬味をこれでもかとばかり盛り付ける。見た目はちょっと悪いが、豪快な一皿が完成する。
たたきのたれは、店によって違う。私は近所の道の駅で売られている水産会社の商品が好きだ。カツオ船を所有している会社だけに、こだわり抜いた味がする。もちろん、ポン酢や塩で食べてもいける。
たたきを食べる時には、できたら刺身も試してほしい。ニンニクをガツンと効かせた刺身は、他の魚とは違う濃厚な味わいがある。
たたき、刺身、そしてビールに日本酒。高知の地酒は辛口が多く、カツオの風味を引きたてる。締めは「カツオのお茶漬け」を強くお勧めする。ご飯にたたきを載せ、余った薬味とたれをかけて、お茶を注ぐ。カツオの出汁が食欲を誘い、軽く3杯はいける。


高知の人間は「カツオ愛」に燃えている。その影響を受けたのか、私の愛犬マイヤー君は、たたきと刺身が大好物だ。藁焼きを始めると、近くから離れようとしない。宴会ともなれば、テーブルの向こうから「僕にもちょうだい」と無言で圧力をかける。
こうなると、何を言っても無駄である。カツオをやらない限り、せつない視線にさらされ続けるのだ。この頃は、あらかじめマイヤー君の分を取っておく。お前は猫か。思えば、贅沢なグルメ犬になったものだ。


上りガツオは、淡泊であっさりとした味わいがある。これが9月中旬以降の戻りガツオなると、脂がこってりと乗り、濃厚な味に変化する。この時期のカツオは、藁焼きにすると脂が弾ける。まるでステーキ肉のようだ。
高知の漁師は太平洋の黒潮に乗り出し。竿1本でカツオの群れに挑む。
ありがたいことだ。彼らのおかげで、私は家にいながら極上のたたきを食べることができる。
こんな記事を書いていたら、またも食べたくなった。今度は、白ワインを合わせてみようか。
想像するだけで、カツオの味がよみがえる。マイヤー君同様、私も海の恵みの虜になったようだ。

