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ローカルとハイテクの「ギャップ萌え」烏山線

 昨年の3月下旬。日曜日の正午、私は烏山線に乗るため宇都宮駅にいた。宇都宮には何度も来ているのに、烏山線には未乗だった。これまで用も縁もなかった。今回も用はない。終点の烏山駅まで乗って、折り返しの列車で戻ってくる。ただそれだけ。強いていえば「乗車すること」が「用」である。乗り鉄とはいにしえからそういう生きものだ。

 烏山線は宝積寺―烏山を8駅で結ぶ、全長20・4㎞の盲腸線だ。終点・烏山の先はどの路線にもつながっていない、どん詰まり路線。起点は東北本線の駅でもある宝積寺だが、ほとんどの列車が宇都宮で発着する。一日の運行本数は上下線合わせて27本。およそ1時間に1本の計算だ。ただし運行がない時間帯もある。8時10分の次は10時33分と2時間も間隔が空く。この少なさが、これまで烏山線に乗らなかった、いや、乗れなかった理由の一つだ。「宇都宮に来たから、ついでに乗ろう」ができない。ちゃんと「乗るぞ!」と思って、時刻表をチェックしてからでないとなかなか乗れない。
 大丈夫。今日は乗る気満々で、ある程度は下調べをしてきた。

 2両編成のロングシートは、8割がた埋まっている。12時34分、宇都宮駅9番線を発車した。宝積寺までは東北本線をお借りして走る。ヴィイイイイーーーと独特の心臓音を響かせる。走り出しは極々ゆっくり。ママチャリでも追い越せそうな速度だ。30秒~1分ほどノロノロしたろうか。途端に「タタン!」と足音が軽くなり、スピードを上げた。ここからは速い、速い。スロースタートで油断させておいて(誰を?)、突然本気を出してくる。ニクいヤツめ。通常の電車よりも走行音が〝軽い〟気がする。タタン、タタンと軽やかな足取りで、ぎゅんぎゅん速度を上げる。カモシカみたいだな、と思った。
 烏山線(宝積寺―烏山間)は非電化路線である。走っているのはディーゼルではなくEV。蓄電池で走る充電式の列車だ。蓄電池の英訳「accumlator」から「ACCUM(アキューム)」という愛称が付いている。宝積寺駅と烏山駅のホームでは停車中に、そして宇都宮―宝積寺間を走行中に架線から充電する。車内にいると分からないが、今まさにこの子(思わず擬人化)はパンタグラフを上げ、走りながら充電している。この先の20㎞を走り抜くため、マラソンランナーのごとく坦々とエネルギーを蓄えている(はずだ)。   
 10分ほどで宝積寺に到着。大半の客が下りてしまった! 私が乗る2両目には、きっかり10人しか残っていない。1両目も似たようなものだ。宇都宮での乗客数を見て「なんだ、貧乏路線という割に、結構乗っているじゃないか」と思った私が浅薄だった。みな東北本線に乗るのが目的だったのだ。宝積寺の先、つまり純粋な烏山線の客は20人程度ということ……大丈夫かー、烏山線ー。乗客が少ないローカル線に乗ることを趣味とする私だが、宇都宮という大都市から2駅でかような有様とは。
 列車は畑の真ん中を快走する。積み荷(乗客)がずいぶん減ったからか、さらに足取りが軽くなったようだ。3月とはいえ、車窓には冬の名残。枯れた、茶色い風景が続く。途中、ぱっと目を引く緑色の畑が現れた。ネギだ。シュッと尖った穂先が、一定の間隔で、天に向かって伸びている。ネギが畑で整列する様は、遠目で見ると印鑑の汚れを落とすブラシに似ている。谷を一つ越すごとに畑が増え、民家が減る。だだっ広い畑のど真ん中にぽつんと、しかしでっかい豪農の家が建っている。あんな立派な瓦屋根、今時の住宅展示場ではお目にかかれない。
 宇都宮から乗っているお姉さんは地元の人らしい。ホームセンターの袋に入った、珪藻土のバスマットを抱えている。日当たりが良いからか、ロングシートの端っこでぐーすか眠っている。他は男性の一人客が多い。たいてい身軽で、小さなバッグ一つだけを持って乗車している。途中下車する気配もない。18きっぱーのお仲間かもしれない。

 大金駅。おおがねと読む。到着前、車内の停車駅案内ディスプレイに「次は大金」「まもなく大金」と表示される。実に景気の良い、ワクワクするよな駅名ではないか。
 烏山線は、宝積寺、大金と縁起の良い駅名にちなんで、七福神の神様が各駅のイメージキャラクター(?)を務めている。大金駅には大黒天、滝駅には弁財天、烏山駅には毘沙門天、というふうに。七福神はホームの案内看板などで活躍している。駅名標にも、打ち出の小槌など縁起ものがあしらわれていて、見ているだけでも楽しい。ただ、8駅あるのに〝七〟福神では、1人足りないのでは? どうも宝積寺には担当のキャラ(神様)はいないらしい。縁起の良い名前筆頭、しかも起点駅なのになんてこった。
 ちなみに烏山線は宝積寺、烏山以外は無人駅である。

 小塙駅前の踏切では、赤いトラクターが列車の通過を待っていた。滝駅のすぐ脇には果樹園。ソーラーパネルの大群も見える。宇都宮から1時間足らずで、そこそこ田舎の、じわじわ懐かしい風景に出会える。13時22分、列車は終点・烏山に到着した。
 乗ってきた列車の前寄り1両目付近のホーム足元には「充電ゾーン」の表示がある。車両の上、パンタグラフは上がっている。ACCUM、絶賛お食事中。
 線路は車両の10mほど先で途絶えている。車止めの標識が、伸び放題の雑草に隠れてしまっている。

烏山線ACCUM=烏山駅

 改札は乗車賃を精算するおばちゃんグループでつっかえていた。烏山線は現金のみ、交通系ICやモバイルSuicaは使えない。
 烏山の駅舎は巨大な三角定規のようなフォルムで、緑色の屋根と黄色い支柱が印象的だった。駅舎の脇にある腕木式信号の姿をスマホのカメラに収めた。駅前には交番、観光バスの発着所、タクシーの営業所、やってるかやってないかよく分からない旅館。高い建物がない、平板な町並みだ。昭和の中頃、地方の駅前は大概こんなつくりだったように思う(私も写真や映像でしか知らないが)。ここは往時のまま、令和まで残ったのだな。初めて来るのになぜか懐かしい、ガラパゴスな終着駅だった。

 充電を終え満腹になったEVに再び乗り込む。充電池で走る列車は二酸化炭素を出さないので、温暖化対策としても注目されている。ただ、長い距離は走れない。片道30㎞までが目安なのだとか。JRではこの烏山線と、秋田県の男鹿線。福岡県の筑豊本線若松線・篠栗線、香椎線で導入されている。九州の列車には「DENCHA(デンチャ)」というかわゆい名前が付いている。JR九州はネーミングセンスが素晴らしい。

 もと来た鉄路をひたすら戻る。乗客数は相変わらず両手両足の指で足りるくらい。のどかな里山をハイテクのEVが走る。ぽかぽかとのんきな車内。車窓の向こうにはソーラーパネル。このギャップがたまらない。人はギャップに弱いものだ。好きになりそうな予感がする、烏山線。

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