鍵のない夢を見る|辻村深月|文藝春秋|第147回直木賞
「あなたにそっくりね」
母が少年犯罪の精神鑑定を解説するニュース番組を見つめながら呟いた。
その時立ち尽くした私がどうしたのかは記憶からこそげ落ちてしまった。ただ胸元を締め付けられる感覚だけを今でも再現できる。
扇情的に繰り返される報道は、俗世の事件をあたかも稀有で猟奇的な出来事かのようにあげつらう。私たちはあぐらをかきながら、私たちとは異なる世界のものであることを確認して批評しては、はりぼての此岸で安堵する。
犯罪は日常の延長線上に確かにある。私たちはそれを感覚的に知っているはず。であるのに時に“人”は“人”を殺めかねない憎悪の種子を傷口に植え付けては不意に水を注ぐ。日頃当事者意識を持ちあわせることが抑止力であって自己を監視することは理性である。
登場人物は、本の中でなだらかに罪を犯してゆく。何が過ちなのかわからぬまま、気がつくと彼岸にいる。彼らは私達の友達かもしれない。親類かもしれないし慕った師かもしれない。そもそも自分かもしれない。
(わたしにそっくりだわ)
生来持ち合わせた気質なのか、はたまた誰かによるラベリングなのかはわからない。いまだに自身を疑い彼岸と此岸の狭間を行きつ戻りつ生きながらえている。
日常的にテレビを観ることを止めて数年。今私の部屋にはもう共感しやすい私を手懐け彼岸へ誘うものはいない。
多くの犯罪が、人間離れした人によるものではなく、ごく普通の人間が罪を犯してしまうという現実を息苦しいほど感じる物語。
彼岸の者たちを抱き締めてみたくなる。
【覚書】
鍵のない夢を見る|辻村深月 20220518読了
短編集 直木賞受賞
各編舞台が田舎
主人公登場人物が編ごとに異なる
各編登場人物が犯罪者
泥棒
大人になったりっちゃん(バスガイド)との再会
子供の頃の回想 りっちゃんの友達の家で万引きを繰り返すりっちゃんの母
放火 八百屋お七 好色五人女|井原西鶴にも登場
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