#5-4 意思なき案内人|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第4話 意思なき案内人
タトは身じろぎもせず、仮面の男を見つめていた。
言葉が続かない。
すると、レイが脇から口を開いた。
「君は、一人でこの塔と街を見回っているのか?他に人は?」
仮面の男は静かに答える。
「この街の人々は、ここには居ません。地下に暮らしています」
「地下に……?」
レイが小さくつぶやいた。
――昨夜、かすかに聞こえた音。あれは地下からのものだったのか。だが、昨日の調査では地下通路は崩れていた。
「なぜ、地下で?!」
トが思わずきつく返した。
男は仮面の顔を少しだけ傾げた。
「それは、街の人々に直接お尋ねになるのがよいでしょう。 入り口までご案内しましょうか」
声は穏やかで丁寧だったが、不思議なことに、どこか抑揚に欠けていた。感情があるようでいて、ない。
意思を持たない“器”のようでもあった。
男は、「イオフィリア」と名乗った。
「イオ、フリア? 難しいなぁ、イオでいい?」
警戒が解けたミミが、人懐っこく話しかける。
「ええ。構いませんよ」
イオは淡々と答えた。
タトは胸の奥に、ざわめきとは違う感情を抱えていた。タの言動にトは無意識に苛立つ。
なぜ自分から質問しない?レイに任せている?
その得体の知れない感情が、この不自然な状況と重なった。
この仮面の男は、何者なのか?
タトは口をキュッ結び、眉をよせた。
*
教会塔の地下入口は激しく崩れていたが、イオの案内で建物の裏手へ回ると、
その一角に倉庫の扉のような目立たない入り口があった。
「ここが、街の入り口なの?」
ルリは不思議そうに尋ねた。
イオは頷くと、その扉に取りつけられた古い鎖を引いた。
金属音が静かに響き、遠くでかすかに音が鳴る。やがて扉が、ゆっくりと自動で開いた。
「私は共には参りません。 ですが、彼らは穏やかで、思いやりのある人々です。 安心してお訪ねください」
そう言うと、イオフィリアは振り返ることなく去っていった。
タトはしばらく動かず、開かれた木戸の向こうを仲間たちと見つめた。
「彼は信頼できるのかしら?」
ルリが戸惑いを隠さずに囁いた。
「仮面で感情がますます分からないわね…」
「そしてこの扉だ」
レイは興味深そうに、古い鎖にそっと触れた。
「鎖が奥までつながっていて、知らせを届けた。この塔は、ただ崩れているだけじゃない。何か高度な機構がある」
ミミは扉の奥をじっと見据え、耳を澄ませる。
「……気配がする。結構たくさんいるみたいだよ」
タトは、開かれた木戸を前に深く息を飲み、皆に目配せをして、小さくうなずいた。
木戸の奥からわずかに漏れるのは、光苔のような淡い光だ。
地下特有の埃や土の匂いはなく、あたたかな空気が静かに流れてくる。
五人は、扉の奥――未知の地下通路へと、一歩を踏み出した。
(つづく)
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