#6-11 終焉の氷門|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
6-11 終焉の氷門
その道は、森の奥へと導くように、どこまでもまっすぐ続いていた。
「何日も同じ景色だ。雪もやまないし周囲が確認できないな。……今、どこらへんだろう」
タトたちは森で野営を繰り返しながら、ただその道をたどった。
空白の塔を出発したとき、進むべき方向には確かに氷山があった。
けれど、これまで厳しい「道なき道」を進んできた三人にとって、深い森の中に現れたこの整えられた白い道は、どこか不自然に感じられた。
まるで、見えない力に誘導されているような――。
しかし、ここ以外に道はないのだ。
「氷山に近づいているんだよね……。それなのに、魔獣もいない。魔攻撃もない。静かすぎる…」
不気味なほどの静けさの中、ときどき枝から雪がサラサラと落ちる。
高くそびえ立つ木々が空をふさぎ、あたりは昼間でも薄暗い。 自分たちが粉雪を踏みしめる「ギュッ、ギュッ」という音だけが、森の中に響いていた。
さらに十日ほど進むと、突如、森が途切れた。
まっさらな雪が一面に白くひらけた先に、氷でできた門がある。
門の脇は左右に氷の壁が続いていた。
「すごい!なんて長い氷の城壁だ!」
「でも…あまり高くないね。ミミなら飛び越えちゃうよ」
ミミが笑う。
だが、彼女はいつものように走り出さなかった。
鋭く城壁を睨んでいる。
その、人の背丈ほどの白い壁は、見渡すかぎり遠くまで続いており、目の前の門をくぐらないと先へは進めないようだ。
三人はゆっくりと雪を踏みしめて門に近づいた。
氷のアーチ門の下には、一体の人影が立っていた。
この極寒の中、ぴくりとも動かない。女性のようなシルエットのそれは、氷でできているようだった。
衣のひだまでがそのまま凍りついたように緻密に彫られている。
「こんな所に、なぜ人の氷像が…?」
遮るもののない平地にチラチラと舞う雪が、風に舞い上げられて、視界を白くする。
門の向こう側を見上げると、厚い雲の切れ間から氷山の一部がのぞいた。
「ここが……氷山の入り口らしいな」
辺りを慎重に見回しながらレイが呟いた。
一歩、門へ近づいたミミの足元がピシッと音を上げた。
「タト!!」
ミミが亀裂の入った足元の氷を指さした。
氷門へと続く、青白い氷の底に、何かの影がある。
最初は岩かと思った。
だが、雪を払いのけ、目を凝らしたタトは息を呑んだ。
氷の中にいたのは、人間だった。
倒れ込んだその身体は、うつぶせの状態で閉じ込められている。
視線を巡らせれば、隣にも、その隣にも。
「なっ……!!いったい何人いるんだ……!?」
タトは思わず飛び退いた。
別の場所で足元の雪をかき分け、探せば探すほど、人の数は増えた。
彼らはただ、深い眠りについたかのように、静かに横たわっている。
どの人も、自分たちのように長く旅をしてきたような格好だった。
レイが、ある一人の男性に目を留める。男性の腰袋から黒い石がのぞいていた。
「これは!オリジア石じゃないか?
ミミ、ここを溶かしてくれ!」
ミミの炎が氷を溶かし、白い湯気が立ち上る。
三人は一人の男性を救い出したが、彼は長い歳月を凍りついたまま、静かに時を止めていた。
その穏やかな顔は、まるで深い眠りについているかのようだった。だが、彼を包む空気はどこまでも冷たく、動くことはなかった。
彼の腰袋の中から六角柱の石を取り出す。レイが触れると、石は白く光りだした。
「やっぱり、これはオリジア石だ!
この人が……十年前にヴァリスとラーフェを訪れた、あの旅人なか…?」
その時、どこからか声が響いた。
『オリジンよ…』
「だれだ?!」
レイは弾かれたように顔を上げたが、人影はない。
それは、風の音のようにも聞こえた。
「オリジンよ…」
今度はタトにも、はっきりと聞こえた。
それは、細く、冷たい女性の声だった。
(第七章へつづく)
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◯設定・サイドストーリーはこちら
〇第六章①〜⑪話はこちら
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