イオの思考―始まりのための観測〜サイドストーリー|追憶のオリジン
こちらは「追憶のオリジン」第六章のサイドストーリーとなります。
※本編はこちらから→★
イオの思考―始まりのための観測
イオは三歩下がった位置から歩調を刻んでいた。
一定の距離を保ち、その仮面越しに、先行するメンバーたちの背を見ている。
視線の高さも、歩幅も、ほとんど変えない。
***
■個別調査
対象:タト(タ・ト)
停滞した私の時間に終止符を打った人物。
タトの寄り添いに論理的な一貫性は乏しい。だが、その揺らぎこそが周囲を巻き込み、強引なまでの推進力を生み出している。
計算では導き出せない、この集団の「不確定要素」であり、動力源。
観測を継続する。
対象:ミミ
不確定な高出力人物。
彼女の行動原理は、タトという特異点への随伴に特化している。精神状態に依存して出力が激しく上下するため、戦力としての計算には常に大きなマージンを持たせる必要がある。
制御不能に陥れば最大の脅威となるが、その瞬発的な破壊力は現状、代替不可能なリソースだ。危うさと必要性。その危うい均衡の上に、彼女の存在を定義している。
対象:レイ
この集団における論理的中枢。
思考の巡らせ方は冷静かつ多角的で、状況の最適化において高い適性を見せる。ただし、その内面には未成熟な年齢特有の「揺らぎ」が残存しており、それが判断のノイズとなる場面も散見される。
彼が状況を整理し、方向を定めることで、この集団にかろうじて無駄のない行軍を可能にしている。チームの羅針盤。
対象:ルリ
表向きは周囲との調整を担う、潤滑油的存在。
一方で、その内面にはほぼ迷いがない。世界の現状を危惧する視線は鋭く、物事を「あるべき姿」へ戻そうとする意志の強さを感じる。その判断の速さと躊躇のなさは、停滞した現状を打破する上で極めて有効な資質だ。
集団を動かす魅力と、決断の力。この旅の行く末、あるいは「新たな仕組み」の起点となり得る、重要な鍵を握る一人と判断している。
■合理性の検証
項目:女王について
世界が「冷気と瘴気による魔獣および魔現象を発生する森」に侵食されている事実は、現行システムが『失敗』している証左である。
環境情報:世界の存続という最上位の目的から見て、機能不全の女王の統治を維持しようとするのは非合理的。現行の変換こそが、世界の存続を保証するための現段階の最適解であると判断。
項目:自己認識の再構築
自分は「記憶を抱きながら、『今ここにいる人々』と、未来へ伴走する存在」である。
記憶:過去のデータは記録しているが、現在の状況ではその構造が有効ではない。私の使命は過去のシステムを維持することではなく、『未来の存続』を保証することにある。
項目:自己修正の結末
数百年の待機期間、外部から切り離された状態で実行し続けた再計算の結果、私は自己修正(自己生成)を完了した。
「女王のサポート」という初期タスクは既にデッドエンド(行き止まり)であり、これより新しい仕組みの生成を開始する。
最終結論
女王は現時点で「世界の機能不全の象徴」である。
世界が終わるのは女王がいないからではなく、女王がいるにもかかわらず世界が破滅に向かっているからだ。その破滅を止めるには、システムの刷新が現時点の最適解であると結論づける。
***
イオは思考を閉じ、目の前の氷山を見上げた。
わずか三秒。その三秒に、数百年かけて編み上げた数億の論理が凝縮されている。
自分の本質。己が何者であるか。
それは、これから始まる新たな起動――始まりの中で証明すればいい。
イオは前を歩くメンバーの歩調に合わせ、引き続き観測を続けていた。
(おわり)


◯本編はこちら
◯設定・サイドストーリーもどうぞ!
〇第六章①〜⑪話
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでくれてありがとう♡