窓辺の風 〜サイドストーリー
第三章 サイドストーリー
窓辺の風
レイは図書室の窓辺に座っていた。
塔の上階にあるこの場所は、幼い頃からのお気に入りだった。
本に読み疲れると、決まってこの窓辺に来て、街を見下ろした。
ここからは、街の全体が見渡せる。
教会の塔を中心に、半円状に広がる街並み。
五本の大通りが中心から伸び、環状の道でつながっている。
家々は白く、キラキラと輝いていた。通りには樹々の影が落ち、郊外には整えられた畑が広がっている。
その先には、迫るように成長する森が見えた。
冷ややかな風はいつも、氷山から吹き下ろしてきた。
防風林の奥には魔獣が潜み、魔現象があふれる。街の外は危険と隣り合わせだった。
それでもこの街は、豊かで静かな暮らしを営んでいる。
だが、レイはずっと考え続けていた。
この世界の成り立ちと仕組みを。
おおよその仮説は立っている。
あとは、確かめに行くだけだ。
そして――その時が、ついに来たのだ。
タトは、目の色を変えて本を読み漁っている。
ミミは狩りに出ていた。
この街の外から旅をしてきたふたりと共に、レイは氷山を目指す。
算段は立てられる。
――漏れはないか。
レイは、霧の奥にぼんやりと浮かぶ氷山を見つめながら、
可能性をひとつずつ、頭の中で吟味していた。
やはり、自分の目で確かめるしかない。
そのとき、足音がしてライアンがやって来た。
その後ろから、セーラがお茶を運んでくる。
タトにそっと配り、レイの前――窓辺のサイドテーブルには、慣れた手つきで置いた。
「どうだい、レイ?」
ライアンが声をかけた。
「計画は整った。あとは行くだけだ」
その言葉に、それまで黙っていたセーラがふいに声を上げた。
「……なにも、レイが自分で行かなくたっていいじゃない。
情報だけ渡してあげれば済むことでしょう?」
セーラもまた、この教会で育った。
タトたちが来てから、ずっとどこか不機嫌だった。
「そうはいかないよ」
レイは短く答える。
「だって、森を抜けるなんて……。今まで誰も帰って来ないのに……!」
「タトとミミは来た。」
「でも、あなたじゃなくても!」
レイは静かに、まっすぐにセーラを見て言った。
「僕の役目なんだ」
セーラは、不安と悔しさを認めまいとするように眉間にシワを寄せたが、
口からでた声は、苦しそうだった。
「……もう……会えなくなるの……?」
言葉を発した途端、その顔が泣きそうに歪んだ。
レイは少しだけ微笑んで、答えた。
「セーラ。
この世界は、どのみち一つだ。
どこにいても、僕らは一緒だよ」
そう言うと、レイは再び氷山を見上げた。
風が吹き、白鷹が鷹柱を作っているのがみえる。
うなだれたセーラの肩に、そっとライアンが手を置いた。
彼もまた、寂しげな表情を浮かべていた。
レイは、生まれたときから前しか見ていなかった。
この世界の謎を解くために。
女王はきっと、あの先で待っている。
風が吹く。
氷山の影が揺れる。
自分の運命を前に、レイの胸はいま、
静かに――熱く、高鳴っていた。
(おわり)
本編
窓辺の風 〜サイドストーリー - 追憶のカケラ|本編のこぼれ話・ミニエピソード・設定 | Tales 物語・小説
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