見出し画像

【第八章 番外編】氷壁の落書き|ショートストーリー読みきり│追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

第八章のカケラ
【番外編】氷壁の落書き

氷山内部の螺旋階段で、時空の歪みでバラバラになってしまった五人は、ようやく出会うことができた。
旅の途中、休憩のひととき。

第八章から読み始める場合はこちら↓

https://note.com/mfullmoon001/m/m78ec458ab368



「レイ、本当によく戻ってくれたね」

タトは白い息を吐きながら、しみじみと言った。
こわばっていた全身の緊張が、すーっと解けていくようだ。

「でも、上に行ったはずが、どうして下から来たの?」

問いかけられたレイは、何かを思い出したようにニヤリと笑った。

「階段を降りても会えないと考えて、上に登ったんだ。
途中、君たちの落書きを見つけたよ。数字も彫ってあって…くくくっ!
あれ、ミミだろ?めちゃくちゃだったぞ」

ミミがむくれて言い返す。

「レイの真似しようと思って、みんなで考えてたんだよー!
結局、数字も分からなくなっちゃってさ」

「後から来る人に悪かったかな…」

タトの生真面目な心配に、レイは小さく吹き出した。

「大丈夫だ、誰もあんなの目安にしない。
そもそも、ここへはそうそう人は来れないしね。イオも色々、見たよね?」

「はい」
イオが淡々と答える。

「付近の階段は滑り止めの凹凸が彫ってありました。壁の彫刻も見事でしたね、ルリさん」

「うふふ。あれはタトの仕業よ。
私は、ここまでの道のりを彫れたら…とアイデアを出しただけ。そうしたらササッと彫ってくれたのよ」

「あ、いや……小刀でよく木彫りしてたから、懐かしくなっちゃって」

照れくさそうにタトが呟く。

「私のサインと日付の横だったから、誰かが見つけたら私が有名になるわね」

愉快そうにルリが笑うと、レイが追い打ちをかけるように言った。

「『ミミだよ』も横にあった。
食べた物と眠った回数…僕への不満も…」

笑いを堪えるのが大変そうなレイ。

「だあって!本当に遅かったんだもん!」

顔を真っ赤にするミミを横目に、ルリが思い出したように付け加えた。

「肖像画も、お互いに彫りあったのよ」

「ああ、ルリとミミのはすぐに分かった。あとは…クマだったな」

「……」

ミミがしょんぼりと耳を垂らした。

「ごめん、タト〜……」

一生懸命にタトを彫ったつもりだったのだ。

一瞬の沈黙のあと、みんなは顔を見合わせてどっと笑った。


氷の洞窟に漂う靄(もや)が、ゆらゆらと揺れていた。


(おわり)


氷壁の落書き


〇第八章マガジン


◯本編はこちら


◯設定・サイドストーリーはこちら


いいなと思ったら応援しよう!

望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡