第五章【番外編】ラーフェの書庫|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
こちらは「追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街」第五章の番外編です。
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【番外編】ラーフェの書庫にて
タトとレイは、案内された静かな書庫にいた。
壁一面を埋め尽くす分厚い書物と、整然と並べられた羊皮紙の巻物。
ほの暗い部屋に、ひっそりと納められている。
しかし、ライン状に伸びる光だけは異質な雰囲気を醸し出していた。
これが、光魔法と技術の力らしい。
感嘆したように周囲を見回るタトとレイの背後から、ひょっこりと顔を出したのは、モーゼの妻であるラーだった。
先ほど会った時の落ち着いた雰囲気とは打って変わって、その目は若者のようにキラキラと好奇心で輝いている。
「どう?何か面白いものはあったかしら?」
ラーは、書庫を誇らしそうに見回しながら言った。
「ここには、たくさんの書物と資料を集めてあるのよ。でも私たちはあまり使わないわね。古い歴史よりも、この先のことに目を向けているの」
レイは地図の資料台に手を伸ばした。
「これは!まさか、魔力の体系図ですね!」
ラーは優しく頷く。
「ええ」
「初めて見ました!
そうか、土地によって発現に傾向があるのか」
レイは巻物を丹念に見つめながら、発見に声を弾ませた。
「そうね。私たちはそれを、血だと思っているわ。その土地に根ざした先祖代々引き継がれてきたものが、ある時、凝縮されて生まれるの」
その時、コツコツと靴音を鳴らしてモーゼが入ってきた。
「また、ラーの想像の話だよ。本当に見たわけでも証拠があるわけでもないんだ」
モーゼは眉をもち上げて言うと、持っていた資料を元の棚に戻し、新しいものをいくつか手に取った。
ラーはそんな夫を一瞥し、肩をすくめる。
「そうだけどね。でも、だいたい合っているのよ」
「確かに、キミの勘の鋭さにはいつも驚かされるけどね」
モーゼはそう言って苦笑したあと、タトとレイに向き直った。
「ここには昔、地のエレメンタルがいて、ここを築いたんだ」
モーゼは棚の一角から羊皮紙の巻物を一つ取り出すと、家系譜を広げた。
「これがエレメンタル」
家系図の上の方、書き出しを指差す。
「後々、水や光のエレメンタルが生まれて今の形の都市に整ったと言われている。
この街は、どこよりも快適で素晴らしい造りだよ」
彼は指をすっと下に滑らせる。
「そして今の世代はここだ。
この街には多くの人がいて、巻物がもう足りなくてね。いま、あちらの地区を増築しているんだ。興味があったら後で来てみなさい」
モーゼはそれだけ言うと、思い出したように新たに資料を抱え、忙しそうに書庫を去っていった。
入れ違いに、ラーが二人に語りかける。
彼女の声は母のように温かく響いた。
「あなた達は、みんな才能豊かね。
大きな力を持つものは、ひとつの間違いが大きなものになるわ。よく考えて行動するといいわ」
タトは手元を見て静かに言った。
「ボクには…何もありません」
「あら、あなたにもあるわよ。私たちにはみんなにあるの。あなたはまだ、見つめられていないだけよ。」
ラーの言葉に、タトははっとした。
(レイも同じことを言っていた…)
と、いつかの会話を思い出した。
「時に突発的に特異な才能を持った子が生まれるわ。彼らは希望の種よ。
外に出ていった子たちもいる。悪いことじゃないのよ。それを生かすも生かさぬも、運命の流れるままよ」
ラーは少し顔を寄せて、好奇心の強い目で囁くように言った。
「内緒だけどね、私も本当なら地上に出てみたいの。
でもね、あの人はどうしても今を変えるのが嫌なのよ。自分の大切なものだけを守って生きてるの」
タトは、疑問を投げかけた。
「あなたはそれでいいんですか?」
ラーはふっと微笑んだ。
「私はあの人のそばにいるって決めているから。たまに外から来るあなた達の話を聞けたら十分よ」
そう話すラーは、満ち足りて幸せそうに見えた。
「ゆっくりしていっていいのよ。何かあったら遠慮なく声をかけてちょうだいね」
そう言うと、小さく手をふって書庫を後にした。
*
棚を慎重に調べていたレイが、広げた巻物を見ると声をかけた。
「タト、ノーレムと同じ地図だ。こちらの方が古い。原本かもしれない。」
「色がついてる。でも汚れがひどいね」
「ああ、空白の塔は……また名前がわからないままか…」
その街の名前の場所は染みに覆われて見えなかった。
ノーレムにあった地図は、これを元に作られたようだった。
「あの地図は後の時代に補完されている。
街の名前が分からないから、仮の名称として『空白の塔』になったんだ。」
「次の街の情報が、何かここで見つかるといいけど…」
タトとレイは、暇さえあれば書庫に通った。
そして次の街へ向かう準備を始めていた。
(つづく)
◯つづき↓



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