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エリザが受け取ったもの〜サイドストーリー

第三章 サイドストーリー 知識の譲渡
〜エリザが受け取ったもの



フェリサリアの教会の談話室で、
エリザは椅子に腰掛けていた。

背筋は伸びていたが、その目にはかつての鋭さはなかった。


レイとタトは、彼女の正面に並んで座った。

机の上に、ここ数日でまとめられたレイの資料が広げられた。


レイが静かに口を開く。

「まず、この街を立て直すには――
森の侵食領域の伐採、あるいは一時的な焼き払いが必要です。
火魔法の保持者は役割を明確に。適切な境界線を引き直しましょう。
湿地は排水路を整え、住居区域の再編を。」


窓の外は静かだった。
紙の端をめくる音さえ、やけに大きく響いた。


やがてエリザが、低く呟いた。


「……正しいのは、あなたのほうですね」


その声には力がなく、どこか遠くを見るようだった。


「あなた達が来るまで、何をしても無駄だった…。
人が倒れ、森が迫っても、私は“希望を持て”としか言えなかった」


彼女は膝の上で拳を握った。


「あなたが話すように、道を整えて、順序立てて、必要なことをすれば……
私は、もっと早く街を救えたのかもしれません」


しばらくの間を置いて、エリザが続けた。


「けれど私は……ミミを追い出しました。
 “規律を守れない者は、破壊者だ”と信じて。
そうすることが、人々を守ると思っていました。
……それが、間違いだったなんて、なんという因果でしょう。
未熟だったのは、この私ですね」


彼女の声はかすれていた。けれど、涙はこぼれなかった。

タトはその様子をそっと見守っていた。


「私がしてきたことは、“正しさ”じゃなかった。
正しさを振りかざして、ただ、排除していたのね」


レイは一度だけ、視線を落とし、そして顔を上げた。


「判断を誤ることは、誰にでもある。
……でも、そのあとにどう動くかで、すべては変わると思います」


まっすぐな瞳が、エリザを見つめる。


「ここに、ノーレムの知識があります。
今のあなたなら、正しく使えると、思います」


レイは、カバンから丁寧に布で包まれた資料を取り出した。


(“伝えることが善ではない。正しく受け取られることは、もっと難しい。慎重に、見極めなさい”)


それは、資料の写しを携帯したいと申し出た時の、知識の塔の守り人・ライアンの言葉だった。


レイは静かに立ち上がり、資料をエリザの前に差し出した。

エリザもスッと立ち、両手でそれを受け取った。

その手は少し震えているようだった。



タトは、その様子を見ていた。

かつて、ミミを裁いた厳しい視線。
人々を導こうとするあまり、すべてを背負いすぎていた肩。

今、その表情には、以前にはなかった色が浮かんでいる。

迷いも、恐怖も、そして――希望も。



タトは目を細めた。


(……この街はきっと、大丈夫だ)


窓からの光に照らされたエリザを見つめて、そう、思った。




(おわり)



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望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡